大丈夫、私は死んでも問題の無い人間だ。と紫円が呟いた。クスクスと笑って空を見上げる紫円はとても綺麗だった。
俺は、2日前コイツとわかれて京子ちゃんと付き合いだした。理由は簡単、コイツと付き合って京子ちゃんにやきもちをやかせたら案の定京子ちゃんは俺に告白して来た。だから、コイツと別れた
ただ、それだけのはなしだった
『大丈夫。消える』
ふるふると首を横にふって空を仰ぐ紫円。頬や腕や足にはガーゼや包帯の数々。それは俺の彼女がつけた傷。俺はそれに何の反応も示さない。コイツは俺の道具だったから。
『殺せ』
紫円の鋭い瞳が俺を貫いた。左手にはナイフ。包帯だらけの腕と足。そこから滲む、赤紅あか
『嗚呼、無理だな。君は優しすぎる』
ははっと笑って自分の足にぐしゃりとナイフを突き立てる。それはひどく残酷な行為だけどすごく綺麗だった。並森高校の屋上で、紫円は静かにため息を吐いた。この学校は6階建て
『大丈夫。一瞬だ』
にこりと鮮明に綺麗に笑った、彼女がいた。そしてもう片方の足にナイフをつきたてる。どくどくと血が流れる。
そうして両腕に、またナイフを突き立てた
「何をする気だ」
ここまで来てやっと声がでた
『一瞬だって言った』
ガシャンと紫円はフェンスをまたぐ。さらさらと黒い髪の毛が靡く。
『バイバイ』
飛び降りた。フェンスから足をはなした。着地ができないように自らの手と足を傷つけて。
下でぐしゃりと音がした。俺はそこにただ立っていることしかできなかった。しばらくして山本と獄寺君と京子ちゃんが来た。京子ちゃんはすごく嬉しそうに笑った。
獄寺君と山本は悲痛そうに顔を歪めた。そしてそのまま俺に背を向けて屋上を後にする
最後にみた紫円の目はあやつり人形みたいに光なんか宿っていなかった。