秋良さんの名字を僕とハルさんは知らない。
頭の出来が違うからクラスも違うし、その上、特進クラスの棟と馬鹿クラスの棟はもはや別の高校同士のように離れているのであった。
だから名字を聞く機会が無くて、今の今まで聞けないままだった。

「でも、そろそろ聞かないと、本当に駄目なんじゃあないかなと思うわけですよ!聞いてますか、笹原!」

「聞こえとるわいな!むしろこの距離で聞き逃す方のが難しいわ!」

そして今日も騒がしいハルさんがこう言いだしたというわけです。
まずハルさんは秋良さんの名前を覚えろや。とも思うんですけどね。

「お、今日二人早ない?」

噂をすればなんとやら。秋良さんがいつものチョコチップパンを手に、ぶらりと入って来た。

「あきよしさん!あきよしさんの名字ってなんていうんですか。私たち、よく考えたら知らないじゃないですか。教えてつかあさい!」

あー…と頭をぼりぼり掻きながら、そういや教えた覚えないなぁ。と困ったように笑った秋良さん。ちゃんとハルさんの頭を叩くのも忘れずに。

「岸部秋良やで。岸部。でも俺も二人のフルネーム知らんけど?」

「あー、僕は笹原優也っすわ。」

秋良さんは、うわ、むっちゃ優也っぽい。と笑った。なんやねん優也っぽいて。と僕は少し拗ねた。

「ハルさんは?」

言い出しっぺのはずのハルさんは目をぎょろり、と回して、秘密です。と隠した。
そういや、僕もハルさんのフルネームは知らんかったなぁ。同じクラスやけど、先生からもハルて呼ばれてあるからなぁ。

「そういうのええから早よ言えや。」

「言うてしまえば、隠したって僕はいくらでも調べれるわけやしな?」

するとハルさんは観念した様子でため息を着いた。なんやこの言い出しっぺイラッとくるわ。

「ハルディ、マルシュア。うちのお父さん、おフランス出身なので。」

「「ハルディ!」」

「うっさいな!だから言いたくなかったのに!私だけカタカナ名なんて!ずるい!二人ずるいぞ!」

けらけらと笑い転げる僕と秋良さんと、憤慨するハルさん。珍しい構図である。

「こんにゃろう!二人の孫もカタカナ名になってしまえ!」






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