「あれ、笹原一人なん?」

いつもいの一番に来るハルさんが今日は不在とは。
笹原いわく、「昼休みのチャイムが鳴ったと同時に煙のように消えた」らしい。なんて表現だと思うけど、ハルさんなら有り得るとも思ってしまう。

「なんか、ハルさんおらんと静かやなぁ。」

「俺が怒鳴らんからやろな。」

「やなぁ。まぁ、そうやなぁ。」

いつになったら秋良の名前覚えるんやろか、と笹原がちょっと呆れたように笑う。確かになぁ。もうそろそろ同じボケにツッコむんもしんどいねんけどなぁ。

青空の下でぽかぽか陽気の中サンドイッチを頬張る男子高校生二人。花は無いけど平和。

「もう、春やなぁ。」

「ハル?…あぁ、春な。」

「一瞬ハルさんや思ったやろ?もうそれビョーキやで。職業病みたいなもん。」

けたけたと笑う笹原をはたく。とは言ってもハルさんをはたくときより何万倍も優しく。普通逆ちゃうん?とも思うけど。
あぁ、やっぱハルさんおらなアレやな。なんかアレやな。

「なんややっぱ二人やっても寂しいなぁ。」

ぽつり、と聞こえた言葉に少しびくっとしてしまう。自分の心の声が聞こえたかと思った。

「なぁ?秋良。」

「…まぁ、そやなあ。」

いつの間にか二人ともハルさんに慣れすぎてしまって、なんかなぁ。なんやろなぁ、照れくさいけど。

「俺らハルさんのこと好きすぎんなぁ。」

俺が思わずこぼすと、笹原はまぁなぁと笑った。


そのとき、開け放してたドアの影からデカい人影がこっちに向かって飛び付いてきた。

「あきよしさぁああん!笹原ぁああ!」

ハルさんだった。
びぇええんと泣きながらハルさんが抱きついてくる。苦しい。
どうやら、驚かせようとドア影に隠れてたみたいです。そんで出るタイミング失ったんやろな。ほんまアホや。

「私もあきよしさんと笹原大好きですぅう!ひぃいい!」

俺より少し大きいハルさんはその長い手でしきりに俺と笹原の後ろ髪をくしゃくしゃとかき乱す。撫でているつもりなのだろうか。


まさに、春一番のような騒がしさ。
でも、やっぱこんなハルさんがおらなやなぁ。
今日だけは名前の件も見逃したろ。






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