「あなたのお姫様だっこは、格別だったわ。真子ちゃん」
深雪さんが私の腕の中でふわりと笑って、私もつられて頬を緩めた。
ゆるりと手を伸ばされ、緩めた頬を撫でられる。とたんにそこは熱を持つ。深雪さんは私にとって、魔法使いのような人だった。
「真子ちゃん、何か言ってよ。最後なのよ。私たち、もう会えないのよ」
眉を下げて困った風に笑う深雪さんから目を反らす。
私の頬に、触れている左手薬指の冷たさが、どうしようもなく終わりの鐘を鳴らしていたのだった。
「深雪さんは、」
冷たさに耐えながら、吐き出す。
「深雪さんは、ずるいですね」
その言葉を吐き出すやいなや私の目からはたらたらと涙が流れ出した。深雪さんが困惑の目で私を射抜く。あぁ、彼女の前で泣くのはこれが最初で最後になるのかと、私は制服にしわがよるのも厭わずに深雪さんを抱き締めた。
「深雪さん、なんで、結婚なんか!」
「…そういう歳、らしいわ。私だって本当は、」
そこで言葉を区切る深雪さんはやはり、ずるい。
終わりの鐘が一際大きく鳴る。
「…真子ちゃん、あなたの全てが、格別だったわ」
頬から温もりも冷たさも離れていく。私は涙をたらたらと流しながら、ずるいずるいと譫言のように繰り返すことしか出来なかった。
≪