「いやだ!いやだ、私はどこもおかしくなんかない!離せ、離せよ!」

死に物狂いで暴れる東サヨリを無理矢理引っ張って診察室に連れていく。やめておけ、と言ったのに勝手についてきた西リンコはその様子を見て怯えたのか、ぽろぽろ泣き出した。だから言っただろう。
だれも友達の壊れた姿なんて、見たくないに決まってるんだから。

「サヨ、ちゃん…。」

西リンコが涙ながらに呼ぶその名前に、東サヨリが固まる。そして大粒の涙を溢すのだった。

「わた、しは「サヨちゃん」じゃない。」

東サヨリは今にも倒れそうにがくっとうなだれた。私はそんな少女をもう引きずるようにはしなかった。
なぜ、東サヨリは自分が東サヨリであることを頑なに否定し続けるのか。
確かに暴行を働いたことから目を背けたいのは分かるが、人のせいにしたいのは分かるが、こうも思い込めるものなのか。
自分が西リンコであると。

「サヨちゃんは、サヨちゃんだよ。…私の、救世主…。」

私のスーツの裾をぎゅうっと握りしめて西リンコが絞りだすように言った。
まるで本物の西リンコと偽者の西リンコの対決のようだった。どちらが、西リンコの今の感情をリアルに言えるか。
そしてその対決においては勿論、勝者は明白であった。

私はうなだれた少女を抱えあげる。もう抵抗はしなかった。その代わりに一つの質問を投げ掛けられた。

「おじさん。ほんとうに、わたしがサヨちゃんなのかな…?」

拙い言葉で縋るように問い掛けた少女の目はぼんやりと天井を見ていた。

「それは、私が判断すべきことではないな。」

その答えを、少女は鼻で笑った。














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