もし、生まれる前に戻れるならば、もっと良い精子とくっついて、もっと優秀な人間に生まれたい。
私は切にそう願った。
だけどそんなことは出来ないのだ。それくらいは私にだって分かった。
分かってしまったから、今の私があるのだ。
栞はとっても賢いわ。でもとても──
お母さん。そんなこと言わないで。
私だって、私だって本当はね…。
ピリリリリ、携帯のアラームが六時を知らせる。
夢からの帰還。
寝呆けたままでしばらくぼーっとする。これは充電中なのだ。
今日を上手く過ごすためのいろいろな力を充電中なのだ。
「…よしっ。いくぞ。」
この時間をとらなくてはきっと私はぽっくり死んでしまうだろうね。
どこかでそう言っている私を知らないふりして、身支度をはじめる。
月曜日だ。カーテン越しにのぞく朝日が眩しい。学校だ。
冬服がとても重い。
でもその重さを利用してスイッチを入れる。
スイッチが入れば私は、良い人になる。
教師やクラスメートに好かれる良い人になる。
優しくなる。笑ってみせる。謙虚でいれる。
こうしないと生きれないんだね。
またどこかから聞こえた私の声は悲しげだった。
しょうがないじゃないか。
いかに悪者にならずにすむか、いかに味方を多くするか、いかに優れているように見せるか。
それを考えていなければ不安になるんだから。
体感体重ただいま百キロ。
それにローファーの三十キロを足して体感ただいま百三十キロ。
私はドアノブを回して誰に向けてか、いってきます。と言った。
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