店頭には季節外れのイルミネーションがぴかぴか光っている。
そんな店の中はというと、案外落ち着いた雰囲気で。店長は、いつもカウンター越しでカップを拭き拭き。
私のお気に入りのカフェ。
「てんちょおー、そろそろ外しませんか。イルミネーション。」
もう五月ですよ、春ですよ。雪も溶けて桜も散りましたよ。
それでも店長はにこりともせず、嫌だ。の三文字で片付ける。
「なんでですか。季節外れすぎるでしょ。」
すっと差し出されたいつものコーヒーを少し飲んで、これまたいつものイルミネーションの有無についての議論をする。
店長は苦そうな顔をして私を見やる。
「いいじゃないのよ。目立つし、あんたもアレ見て最初来たじゃない。」
そうですよ。私は素直に頷く。
去年の八月にこのカフェを見つけて、どんな内装なんだろうって悪い意味で思ったんです。悪い意味で。だから、
「はっきり言ってダサいんですよ!」
「はぁ…最近の若い子はすぅぐそういうことを言うねぇ。ほら、コーヒー冷めるよ、早く飲んじゃいなさいよ。」
店長は鬱陶しそうに眉をひそめた。
うぅむ、納得がいかないまま私はまたカップに口をつける。コーヒーは相変わらずほろ苦くて美味しい。なんてもったいないんだろうか。絶対外観で損してると思う。
だっていつも他の客はいなくて私と店長の二人っきりだし。
「もったいない…。」
一言思わずもらすと店長はくくっと笑った。
「あんた、この店が繁盛してないと思ってるね?」
「え?まぁ…なんで分かったんです?」
「なんとなく。」
店長はくつくつ笑っている。私はなんとなく見透かされている気がして頬をふくらませた。
そんな私を見てさらに続ける。
「あんたが来るこの時間ね、普通は開いてないのよこの店。」
だからあんた以外来ないの。
そう言って店長は自分の分のコーヒーを淹れだす。
そんなこと初めて聞いた。私は目を真ん丸くして店長を見る。
「え、だって初めて来たときもこんくらいの時間だったけど、開いて」
「あれは単に閉店のカードを吊るし忘れただけだもの。」
「…じゃあ私すごく迷惑な客じゃないですか。なんで今まで言ってくれなかったんです?…っうわぁーもうごめんなさい」
カウンターにずるずるとうなだれる。深夜一時。確かにこんな時間に開いてるカフェなんて珍しいわ。
店長が自分のコーヒーを飲みながらうなだれた私の頭を撫でる。
「いいのよ。だってあんたと話すの楽しいもの。私、その話し方好きよ。」
頭上で笑う店長の顔が容易に想像できる。
私の気持ちに気付いているのかいないのか。頬はとたんに熱くなる。
優しい店長、お気に入りの店。
出会いがイルミネーションきっかけだから、もしかしたらちょっと外れたイルミネーションも悪くないかもしれない。
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