「サヨちゃん、着いたよ。起きて。」
窓の外はもうすっかり明るくて、サヨちゃんは眩しそうに顔をしかめた。
「ここ、どこ?今何時?」
多少寝呆けているのか、目をこすりながらあたりを見渡した。それに、遠いところ。七時半だよ。と返すと、サヨちゃんはへらっと笑って、遠いところ。と繰り返した。
そう、遠いところに来たのだ。
お母さんも誰もかれも私たちを知らないところ。
バスが大きく息を吐き、停車した。
「ねぇ、サヨちゃん。」
お金を払い、先に降りた私はくるっと振り返って少女の名前を呼んだ。うん?と返ってくる声に、もう一人じゃないんだ、と安心した。
少女、つまりはサヨちゃんの手をとってまた私たちは歩きだした。
どこに行こうかなんて話しながらゆっくりと歩くことがこんなに穏やかで幸せなことだとは思わなかった。サヨちゃんが蝶々を見て綺麗、と微笑んだ。
昨日のことも浄化してしまえる気がするくらい、心地いい安心感だった。
すべてなかったことになってくればいいのに。綺麗な横顔を見てそう思った。
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