「また、えらく綺麗に咲かせたものだね。風奈さん。」

「綺麗ですか?やった、ありがとうございます。」

ピンクに咲いたチューリップをしげしげと見つめて、先生はまたタバコを口にくわえた。
園芸部でもない私が(というかこの学校に園芸部などもとより存在しないのだけれど。)この花壇を自由に使えるのはこの先生のおかげである。
私が先生に花を育てるのが好きだと言ったら
なら、空いてる花壇あるし使いなよ。
と、わりかし簡単にこの花壇の使用権を与えてもらったのである。

それからというもの、先生はある時は授業用の白衣のまま、ある時はだるっだるのジャージで、ある時は「先生も水をやりたい」と可愛いぞうさんじょうろを持って、とよくこの花壇を見に来てくれる。

「いやぁ、チューリップねぇ。可愛らしいじゃあないの。風奈さんにぴったりね。」

「先生は、椿っぽいですね。」

「初めて言われたわ。」

くく、と喉をならすように笑う。先生はその時はとても若いというより、幼く見える。

「だって椿って「落ちる」でしょ?綺麗な形のまんま。先生って死んじゃっても変わんなそうですし。」

「だから椿ね。ふっ、老い先短いばーさん先生にする話じゃあないなぁ。」

暖かい光がぞうさんじょうろの中の水に反射して眩しい。
私は思わず顔をしかめる。

「ははっ、先生はまだ若いですよ。まだ独身だし。」

「そこをいじるんじゃありません。先生はただ男にモテなかっただけですー、女の子にはちゃんとモテてましたー。」

唇をとがらして、ぞうさんじょうろを手にとり、水をまく。
先生はやっぱり何をさせても綺麗だなぁと、私は少し悔しくもなった。

「ん、どうしたの?」

「…いや、先生が女子にモテてるの容易に想像できるなって。」

眩しくてよった私の眉間のしわを空いた左親指でぐりぐりと伸ばしながら、冗談だっつの。とまた先生は喉をならし、笑った。
少なくとも私のこの気持ちは冗談でもなんでもないんだっつの。と心の中にタバコの煙のように広がったこの思いは、どこに吐き出せば良いの、先生。














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