「下書き通りになんか、いくわけねぇだろが!」

僕のとなりで絵の具のカスが溶けた汚い水がばしゃんと宙に浮いた。なぜかスローモーションに見えた。
僕は目を見開いたまま。ぶわっと冷や汗が出た。

状況を説明すると、隣のそのまた隣の美里ちゃんが「下書きと全然違くなったしにたい」的なことを延々と愚痴っていたら、隣のどうして美術部に?と思わず聞きたくなるような赤毛ヤンキー城田さんがさっきのような言葉を吐いてなぜか絵の具を洗うための水をひっくり返しましたIN美術室。

美里ちゃん涙目。城田さん憤怒。僕は顔面蒼白。

「ま、まぁまぁ、確かにね!美里ちゃんも愚痴るのは良くないけどさ、城田さんも落ちついて」

「違ぇんだって!あたしが言いたいのは、下書きよりそっちのが良いってことで!下書き通りに描けるのと上手いってのは違ぇと思うし、あたしはそっちのが好きだし!!」

美里ちゃんは涙目のまま城田さんを見つめていた。城田さんの良く通る声は美術室に反響した。
夕焼けが差し込んで床の水はオレンジに光っていた。

「…好きなもん延々と悪くいわれんの嫌っつか、なんか、上手く言えないけどさ。ごめん。」

がりがりと頭をかく城田さんは少し泣きそうな顔をしていた。
この子はすごく真っ直ぐで、絵が本当に好きなんだな、と僕はぼんやり思った。
美里ちゃんはとうとう泣いてしまったけど、「城田さん、ごめんね。ありがとう。」と言ったということは嬉し泣きなのかもしれない。城田さんは照れくさそうに美里ちゃんの髪をくしゃくしゃと撫でた。


その後、三人で仲良く雑巾がけをしました。
女の子二人は急接近し、美里ちゃんによるとどうやら今度の日曜日は一緒にとある美術系の専門大学のオープンキャンパスに行くそうです。
なぜ僕も誘ってくれない、と少し拗ねました。
僕は僕で城田さんのことを下の名前で呼ぶまでには接近できています。
今まで、暇潰しに部活やってたのかなぁだなんて思っていたので申し訳ないと謝ったら「この憎い髪色を黒に染めたい」と真顔で言っていました。どうやらあの赤毛は地毛らしいです。

とにもかくにも、少人数の美術部。
今日も平和でありますように、と僕はまた四階まで足を運ぶ。
以前より、楽しみな気持ちを抱えて。














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