夜に見かけた幼い子はどこか浮き世から切り離れたところに行きたそうなそんな顔をしていた。
私もまだ中学生だったけれど。

「どうしたの?迷子?」

私が自転車から降りて、その子の目線に合わせる。
その子はピンクのワンピースの裾をきゅっと握り締めて

「おかあさんのとこ、いきたいの」

と、震える声で言った。今にも泣きそうだった。

「そうなの?じゃあ、家はどこらへんかな?連れてってあげる。」

するとその子は首を横に振った。
私は首をかしげた。

「あのね、いえにはおかあさんいないの。んとね、おはか?いきたいの。」

なるほど、と思った。女の子の手には真っ赤な花が一輪。カーネーションと間違えたのだろうか。
幼稚園で母の日の催しごとでもあったのだろうか。
どんな気持ちでこんな暗い時間まで一人でいたんだろう。

「おねえちゃん、なんでないてるの?」

母の日、ねぇ…と呟きながら私は目を擦った。
私にもカーネーションをあの人にあげたことがあったのかなぁ。
幼稚園で描いたあの人の絵をあげたことがあったのかなぁ。

女の子はきょとんとした顔でこっちを見ていた。

「お墓、どこらへんか分かる?」

「んとね、もうすぐ!」

「送ってあげるよ、後ろ乗って。」

よいしょ、と私は女の子を持ち上げる。私の後ろの荷台には座布団が乗っかっている。しょっちゅう友達と二人乗りするからなのだけれど、こんなところでも役立つなんて。そこに女の子を座らせた。

しっかりしがみついといてね。
そう言って私は自転車を走らせた。
女の子を持ち上げたときに見えた無数の足の痣のことを忘れられるように。














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