今日の帰り道、サヨちゃんを見かけた。
私とは反対方向に帰るはずのサヨちゃんがなぜかこちら方面に颯爽と歩いていた。
田舎道とはあまりにミスマッチなその風貌はどこかいつもと違っていた。なんだか、嫌な予感がした。
私はつい、後を追い掛けた。
サヨちゃんは早足で、まるで私に気付いて、まこうとしているようだった。
ぜえぜえと息を切らしながらそれでも私は追った。
私たちが到着したのは近くの養鶏場だった。サヨちゃんはここに何の用があって来たんだろうか。
物陰からサヨちゃんを観察していると、サヨちゃんは鶏に近付いて何かぶつぶつ言っていた。
いや話していた。というのが正しいのかもしれない。
時たまけらけらと笑いだしたりもした。
そりゃあ子供は、たまに動物に話し掛けたりすることもある。言ってしまえば大人だって。
でもなぜか、サヨちゃんのそれは違った。
ちらりと長い髪の隙間から見えた笑顔は歪んでいて、まるで悪い大人が麻薬の取引をしているかのような。いつものにっこり顔とはあまりに違っていた。
背中に芋虫が這っているような違和感を覚えた。みんなの憧れのサヨちゃんはたった今、私の中で砕け散った。
私は五歩ほど静かに後退りして、それから勢いよく走りだした。
嘘みたいに速く走れた。
サヨちゃんは私の足音に気付かなかっただろうか。
家に帰りつくと私はA4サイズのノートの表紙に、サヨちゃんの日記、とかいて一枚めくった。
今日から、サヨちゃんの日記をつけることにする。
いつかサヨちゃんが警察に捕まった時のために。そんな理由だった。
子供らしいと思われる単純な理由かもしれない。サヨちゃんは今日だけちょっと疲れていたのかもしれない。私のただの早とちりになるかもしれない。
それでもいい。書かなければ。
だってあの時のサヨちゃんは、サヨちゃんは確かに、頭がおかしかった。
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