treasure | ナノ
 
夕焼けと君のせい
 
「ねー黒子っちぃ…」

頬杖ついてたせいで、なんか情けない声出た。
目の前の少年は何ですか、って反応はしてくれた。顔上げてくんないけど。

俺の抗議とも言えない不満でできた主張なんてなんとも思わないらしく、片手に文庫本、もう一方の手に大好物バニラシェイクを持ってご満悦だ。いや無表情だけど。両手に花ってやつか。ちっくしょどっちかの花になりたい。

ちょっとくらい顔、上げてくれたっていいのに。

部活帰り、夕焼けが眩しい時間帯にマジバで運命的な出会いを果たし(運命だよこれ)、同じテーブルに落ち着けたはいいものの。

黒子っちは完全にフィクションの世界に没頭している。ドキュメントの可能性もあるけど。
いやしかし黒子っち、せっかく俺がいるんだから、もうちょっと現実っていうか現在に目を向けようよ。

伏し目がちな彼の瞳の動きを追いながらコーラを一口飲んで喉の渇きを癒す。しゅわしゅわ、しゅわしゅわ。俺達の間に流れてる時間と同じように、口の中で炭酸が消えた。

何でこっち見てくれないの。

俺はこんなに、今でも君を目で追ってるのに。

注文したチキンフィレオはパンからチキンがはみ出て、紙に包まれていると歪な形。彼の光が好きだっていうチーズバーガーは、きれいなマルになるのに。
この形が俺達の関係を表してるみたいで、何だか悔しくて思い切りかぶりつく。何やってんの俺。

ふっと、息の抜ける音が聞こえた。

「……お腹、空いてたんですか?」

ぱっと視線を上げたけれど、彼は無表情でシェイクをすすってるだけ。

……今、黒子っち笑ったのかな。
もしそうなら、俺、すごく勿体ないことした。

じっと眺め続けても理由もなく彼が笑うわけなくて、諦めてレタスの端をかじった。白いソースが上唇についたのを舐めとる。

ポテトを口内に放り込みながらじっと相手お得意の観察を続けるけど、いっっっちども目が合わない。向かい合っててそれもどうよ。

もっと俺のこと見てよ。
俺だけ見てよ。

ちょっとした悪戯心と拗ねた心境の勢いで、食べようとしたポテトを俺と黒子っちを遮る本を越して彼の口元まで持っていった。

「黒子っちー、あーん」

やってから、本に油染みついたらどうするんですかって怒られる可能性があることに気付いて、手を引っ込めた。

ぱくっ

引っ込めようと、した。

………………………………え。

桜色の唇に三分の一くらい、ポテトの先が消えてる。
見開かれた、空色。

あ、目、合った。

固まったままの俺の指から揚げ物がすり抜ける。ざらっと、塩が指の腹を撫でる感触。
小さな口に少しだけ焦げたポテトの先まで消えた。
薄い唇が油で光ってるのが色っぽい。うわ、俺変態だ。

彼はゆっくりした仕種で、バニラシェイクを一呼吸分飲み、それから更にゆっくり、小さな本を垂直に立てて顔を隠した。

「…………すみません、無意識だったんです」

「……え、いや、俺もふざけて…! あ、本汚れてない? 大丈夫?」

「ええ、大丈夫です――……僕、そろそろ帰りますね」

「え、ちょ、待、黒子っちもまだ飲み終わってないでしょ!?」

「黄瀬君はどうぞごゆっくり。……では、これで」

「待っ……!」

怒らせた!? と思って顔を隠したまま席を立つ黒子っちを引き留めようとした手が、止まる。

だって見えてる。

黒子っちの本で隠し切れてない耳が、夕焼けみたいに、真っ赤なの。

「かっ…」

可愛いっ…!!

「ま、待って」

隣を通り過ぎようとした手首を捉える。いけ俺。だってこんなチャンス滅多にない。今押し切れ!!

「く、黒子っちは…俺に食わせてくんないんスか?」

そうしたら、黒子っちの耳が夕焼けより赤くなって。

みっともないことに、俺の顔にも夕焼けが映った。


夕焼けのせい
(俺の顔が熱い原因は、夕焼け一割君九割)



→Thank you!
凍さんから拙宅の二周年祝いにと頂きました!サプライズで頂いて、ほんっとーーーに驚きと喜びでいっぱいでした…。サイトを運営されている方ではないのにわたしのためにわざわざ書いてくださって…(;///;)いつも温かいお言葉や楽しいお話をありがとうございます、これからもお付き合い頂ければ嬉しいです。