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本の森の片隅で
 


本の森の片隅で 


都内でも有数の大きな図書館。 
近所の書店にも図書館にも探している本なかったため、黒子はわざわざそこに足を運んでいた。 



借りたい本を見つけたのはいいが、それが本棚の一番上にあると非常に困る。 
一部の例外(緑間とか黄瀬とか青峰とか紫原とか…)を除き、誰しも一度は思うだろう。 
現在、その非常に困る状態に陥っている黒子は必死に背伸びし手を伸ばしてみるが、ほんの少し届かない。 

大人しく台を使えばいいんだろうが台を使うと昔、黄瀬に「台に乗ってる黒子っち小学生みたいでかわいいっス!!」と頬張りされた微妙な記憶がフラッシュバックするので出来れば使いたくはない。 
黒子は「自分の身長はあくまで平均で君達みたいな規格外の小学生の頃と比べないでください」とでも言って蹴りの一つでも喰らわせておけばよかったと今でも後悔している。 



「後…、ちょっと」 
必死に背伸びをするがどうしても指が本に引っ掻からない。 
ぷるぷると足と腕が疲れで震えてきたそのとき、不意に横から腕が伸びてきて目的の本が抜き取られた。同時に背後に気配を感じて振り返ると、どこかで見たことがある男が本を片手に立っている。 

そして「はい。これだろ?」と黒子の手に本をのせた。 


「ありがとうございます。えっと、海常の……」 
名前が出てこない。 
「変なフォームでSGの…えっと、」 
特徴のあるフォームだったし、女好きという誠凜にはいない中々強烈なキャラをしていた。 
そこまで分かってはいるのに、名前だけが出てこない。 


「別に無理しなくていいよ。オレが一方的に覚えてるだけ。試合だってあれっきりだし」 
「…すみません」 
「森山由孝、三年でポジションはSG。あ、それは分かってたか」 

誤魔化すように後頭部に手を持っていったかと思うと、黒子の腰に両腕を回した。 
なぜか突然に密着度が高くなる。 

取って貰った本を抱え直して、森山を見上げると、森山は満面の笑みを浮かべていた。 

「……森山先輩?あの、この体勢はなんでしょうか」 
「んー?傷付いた心を癒してる。黒子に忘れられててオレの心はズタズタだ」 
「謝罪なら先程しましたけど…」 
「心の傷はそう簡単には治らないのさ。あと無理に先輩って言わなくていいよ、学校違うし」 
「……森山さんって、よく残念なイケメンって言われませんか?なんだか黄瀬君と同じ匂いがします」 
「それは嫌だ…」 
じゃあ離れてください、と嗜めるように黒子は言ったのだが森山は離れようとしない。 
今のところ周りに人はいないが、公共の施設で他の利用がいつ来るかも分からない本棚の間で男に抱きしめられているなんて。そんなシーンは見られたくない。 

「やっぱり好みだ。…ほんとどうしよ」 
「あの?」 
「黄瀬と違ってノーマルだと思ってたけど…うん、かわいい。これは嵌まる」 
「……森山さん?」 

本格的に危険じゃないか、と黒子が思い始めたとき、顎に指を掛けられる。 
えっ?と思う間もなく視界が狭くなった。 
「お礼とお近づきの記念…頂戴?」 
「いや、疑問形なのに一方的に貰うというか、奪おうとしてますよね!?」 
「分かってるなら、させて」 
森山は黒子の唇を自分の唇で軽く塞いだ。 



何度かこうして迫られたことはあったけど、こんな風に流されてしまったのは初めてだなっと他人事のように思った。 
ただ、それを口にしてしまうとなにか調子に乗らせてしまうような気がするので、諦めたに似た心境で森山の口付けを受け入れた。 



→Thank you! 
藍滌鏡花様より頂きました森黒です^//^ 
サイトの方は閉鎖されてしまいましたが掲載許可を頂いたのでお言葉に甘えて…^^ 
本当にありがとうございました、ずっと応援しております!