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冬の色々事
 
空気が冷え込んで、夜闇が色濃くなっている。 
毎年毎年味わっている筈なのに、どうしてこんなにも体と思考は順応性がないのだろうか。己を卑下する訳ではなく、そうなれば勿論人類を否定する気など微塵もないのだけれど、高尾はそんな言いようもない落胆を覚えた。 
人生云十年、それだけ同じことを繰り返すのならば、何か新鮮さを齎してはくれないだろうか。地球温暖化だとか異常気象だとか、そんなものは一市民、どうだっていいのだ。 

「何季節に我侭言ってるんですか、君は」 

明日は気温が冷え込むので、初雪が見られるかもしれないですね。 
四角く切り離された何処かの誰かが、寒空の下、鼻頭を赤くして尚笑顔で言い放つ。傍目は嬉しそうだが、果たして本当に彼女はそれを喜んでいるのかと問われれば、正直応えはノーだろう。今でさえ寒いのにこれ以上冷えるのか、とか何とか。絶対に不満の方が多い筈である。 
そもそも初雪だと言われても、それこそ新鮮味に欠けるのだ。「雪なんて毎年嫌でも見てるっつーの」 

「その年初めて降った雪だから初雪なんでしょう?」 

「それは分かってるって。ちょっと黒子ー、俺のこと馬鹿にしてる?」 

初雪の言葉の意味なんてものは十分理解している。けれども実際に捕捉した回数は物心着いた時から優に十回はあるのだから、楽しめないのだ。初雪が該当するのは今年生れた赤子だとか、自意識が芽生えた幼児位ではないだろうか。初雪の意味云々関係なしに、単純に考えれば世界中の大半が「今年も降ったなー」位の解釈なのだ。も、の時点で初体験じゃない。面白くも楽しくもないではないか。 

「馬鹿というか……歪曲で面倒臭い思考回路してますよね」 

馬鹿と言うから掘り下げたというのに、黒子から零れたのは関心でも何でもなかった。そこはかとなく瞳に呆れが滲んでいる気がするのは、高尾の勘違いではないだろう。 

「うっわ、それ俺に言う!?面倒臭いとか真ちゃんに言うべき台詞だろ?」 

「緑間君は純粋に面倒なので、思考回路は割りと単純です」 

「え、俺は?」 

「高尾君の場合単純を面倒に態と紆余曲折させるので、性質が悪い……胡散臭いんですよ」 

黒子の言葉は正直というか、オブラートに包むことをしない直球ストレートなので、ざっくりだ。表情から大体察しは付いていたけれど、本格的に呆れ果てているらしい。己自身若干性格が歪んでいることは理解しているので、そこまで傷つく訳ではないのは確かだ。しかしそれでも、仮にも恋人に善くもまあ堂々と言い放てたものだ。清清しくて、逆に気持ちが良い。 

「この状況でそーんな貶されるとは思ってもなかったわ」 

「……僕だってこんな状況で君が天気予報を唐突に見始めた挙句、そんな面倒な話されるなんて思ってもみませんでしたよ」零れる笑い声に黒子の溜め息が混じる。その顔は言葉通り、不服そうだ。またそれが面白くて、高尾はその額に小さく口付けた。 

「じゃ、自業自得ってことになんの?俺」 

「そうですね、そうなります」 

掴みっ放しだったリモコンで未だ動きを見せる四角い世界を部屋から切り離せば、冷え込んだ空気がまた闇を連れて戻ってきて、此処ぞと言わんばかりに居座る。一気に寒さが増した気がして、剥き出しの肌が辛い。早々に黒子の沈む布団へと体を埋めると、寄り添うように掛け布団ごと黒子を抱き寄せた。 

「大人しく甘ーいピロートークでもしとけば良かった」 

「それはそれで恥ずかしいので同意しかねますね……というか、このまま寝るんですか?」 

「んー、こっからシャワーとか寒みーし、そうしよーぜ」 

「不快感が否めないんですが、」「そこはさぁ、愛の力で乗り越えよーぜ?」 

冬の寒さなど疾うに飽き飽きしているのだ。どうせならそんな嬉しくもない季節柄の侘しさなんて言い訳で消費してしまって、生温くも心地よい体温に浸っていたい。 
雪が降るなら振ればいい。生憎此処は屋内、ベッドの心地よさの中なのだ。日々を思えば落胆は逃れようのない事実だけれど、初雪よりも綺麗な今が此処にある、なんて台詞は臭過ぎるだろうか。 

「ホントに胡散臭いですね、君は、」 

吐く息の白さを情緒だと言うのならば、黒子の溜め息はより風情がある。そんな己の解釈がまた歪曲した面倒に該当するのだとしたら、甘んじてそれは受け入れようではないか。 

不愉快そうに眉を寄せる傍らで、己が腕の中で緩やかに意識を手放していく黒子を捉え、高尾は小窓から覗く冷えて透き通った宵闇に笑みを象った。 


冬の色々、事の終いに、 
(明日本当に雪が降ったなら、窓もカーテンも締め切って暖かい部屋で抱き合おうか) 



→Thank you!! 
「僕を愛して哀しんで」のギンコさんより相互記念に頂きました!高黒すきなんですが自分では中々書けないのでリクエストさせて頂きました…^^ 

狐っぽさ?というのか、なんか煙に巻くのがうまそうな、そんな感じが正に高尾くんで黒子っちは黒子っちでやっぱり男前だしでさすがです。本当尊敬してます〃´` 

改めて相互ありがとうございました!これからもよろしくお願いします