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廻り回っていとしい
 

※時間軸はほまれ幼稚園の職場体験実習後です 



不器用な愛の伝え方しかできないこども。 
それを要は自分自身に重ねていたのかもしれない。 



「要ってばやっさしー」 

「は?なにが」 

「恋の後押しなんかしてあげちゃって」 

人の恋路を応援する前に自分たちの方をもっと気に掛けたらどうなんだろう。
付き合いはじめてから早半年、ほんとに恋人?と疑いたくなることも屡々。 
優しいのは結構、ただ他人にばかりかまけて自分たちのことを疎かにされては堪ったものではない。 

「要はさ、ほんとに俺のことすきなわけ」

「っ、…何言ってんだよ」 

「何って、当然だと思うけどね。自分のこともままならないのに人の世話焼いてる暇あるの?」 

「な…っ、んだよ、それ…!」 

「俺たちってなに?恋人になったんじゃないの?今の状態で友達から何か変わった?」 

キスはおろか手さえ繋いだことはない。
もちろんセックスなんて夢のまた夢だ。

こんなことで、俺が要の中で悠太や春となにが違うっていうんだろう。 

「…」 

「ほらね、俺たちただの友達じゃない」 

傷付いたような表情の要を、どこか冷めた気分で見つめた。 





「馬鹿だね、祐希くんは」 

「…なんで?」 

「要が正直に言えるわけないでしょ、わかってるんだから譲ってあげなよ」 

「でも俺だって辛いよ」 

「そうだとしても明らかに祐希の方に比重は傾いてるんだから、少しくらい我慢しなさい」 

「悠太冷たい」 

「事実を言ってるだけです」 

いつも俺の味方でいてくれる悠太だけどこの件に関してだけはいつも要の味方だ。 
わかってる。悠太が言うことはいつも正しい。だってそりゃあ当事者じゃないんだから当たり前によく見えてるはずだ。
ただその悠太から見て比重が俺に傾いてるっていうのはちょっと凹む。誰から見ても要より俺の方が相手のことを好きなように見えると。 

「……」 

「ゆーき?」 

「いま死んでる」 

「あらそう」 

「慰めて」 

「死んでるんじゃなかったですっけ」 

「だから慰めて」 

「この子はほんとに仕方ないね」 

そう言いながらもうなだれた頭を撫でてくれるあたり、やっぱり悠太は優しい。 

「明日、ちゃんと仲直りしなよ。要と」 

「…ん」 

ぽんぽん、と励ますように二度叩いたあと悠太の掌の感触は離れていった。 





「要」 

「え…祐希?」 

「……一緒にがっこ行こ」 

「ああ…うん」 

目に見えて気の沈んだ横顔を見たら、声を掛けずにはいられなかった。 

「…ごめんなさい」 

「え?」 

「昨日の、ごめん」 

「祐希が謝ることじゃないだろ」 

「謝ることだよ。傷付けた」 

「別に傷付いてねえ」 

「傷付いてないならそれはそれで酷いよ」 

やっぱり俺のことすきじゃないのかって、疑いたくなる。悠太はああ言ったけど、事実は事実として。 

「!…」 

「友達のままがいいなら、そう言っていいから」 

もしかして、俺を振ったら今までの関係が壊れるとでも思ったのかもしれない。要なら有り得ることだ。俺は別に幼なじみっていう関係がそこまでして守るようなものだとは思ってないけど、それはそれこそ要に恋愛感情を抱いてしまったからで。それ以外どうでもよくなってしまったからで。 

要はちがうとしてもそれは、 

「何なんだよ!」 

「え…」 

「意味わかんねえ、昨日と言ってること違うじゃねえか!俺は昨日ずっと、考えて、…っ」 

「かな、」 

「もういいよ、友達で、友達だ、ずっと」 

足を止めて頭を抱えるみたいに俯いてしまった要の表情は見えない。でもそんなの、声の震えで瞭然としていた。 

「かなめ…、ちがうんだって、俺が言いたいのは」 

「知るかっ、もうお前なんかどっかいけ」

「なにそれちょっと、要?泣かないでよ」 

「泣いてねえ…っ」 

言う声はやっぱり震えていて、どうすればいいのかわからなかった。 
なにしろこんな経験したことがない。今まで誰かと付き合ったことなんてないし泣かれて困ったこともない。俺が泣かれて困るのは要だけで、でもその要は滅多に弱みなんかみせてくれないから俺の前で泣くこと自体がなかった。 

「ねえ、要?要に泣かれるのが一番困る」 

「困ればいいんだお前なんか」 

「やっぱり泣いてるんじゃない」 

「っ、…」 

頑なに顔を上げない要が小さな子供みたいに見えた。精神的には俺よりよっぽど大人だと思うのに、俺にとって要はいつでもかわいい。 
いつもより小さく見える要の黒髪を梳くように撫でると細い肩がぴくりと揺れた。 

「……っ、祐希が、すきなんだ、悠太や春とは、ちがう…っ」 

「ごめん、要…言わせてごめん」 

昨日悠太にああ言われたのに、結局言わせてしまった。 

「なんだそれ…」 

「昨日悠太に怒られた。俺の方がずっと要のことすきなんだから、我慢しろって」 

やっぱり悠太の言うことはいつでも正しい。無理矢理言わせていいことなんてなにもない。 

顔を上げた要の肩に、今度は俺が顔を埋めてぽつりと呟けば軽く頭を撫でられる感触があった。 

「…いま、俺だって祐希のことすきだっつったじゃねえか」 

「俺が言わせた」 

「ちげえよ」 

笑い混じりの声が耳をくすぐる。 
幼稚園のころから隣にいるのが当たり前だった要の声は、もとはひとつだった悠太と同じくらい耳に馴染む音だった。
毎日のように聞いてきた声なのに、唐突に懐かしさが込み上げて柄にもなく泣きたくなった。 

「…要ってほんと、バカがつくお人よしだよね」 

「バカは余計だ、馬鹿」 

ゆるゆると往復していた掌が今まで撫でていた頭をぺしっと叩く。 
悠太ほど俺に甘くない要の掌は、少しだけ痛かった。 



俺みたいのにほだされるなんて、 
要ってほんとバカ 




おわり 



―――――― 
祐希が別人^P^P^ 
まずモノローグを祐希の一人称にした時点で間違いでした