ハルコイ ※狐→一 「狐太郎さん狐太郎さんっ」 「!…あ?んだよ狗吉か」 着流しの裾を下から小さく引っ張られて訝しげに覗いてみれば、正体は縁側の下にしゃがみこんだ狗吉だった。狐太郎の正面に座る一進の目を盗むようにしているのを一応配慮してやって狐太郎も声を潜める。 「これ、狐太郎さんに土産っ」 「はあ?土産?って、どこの……っ!!?」 不敵な笑みを浮かべた狗吉からふいに渡された薄い本をつい受けとってしまってから、表紙を見て反射的にソレを背に隠した。狗吉の頭を叩いてからガバッと振り返り、一進が銀次と話し込んでいるのを見てほっと胸を撫で下ろす。そして、狐太郎の方は気にも留めていない一進に多少の不満を抱きつつも足音を忍ばせてその場を離れ、狗吉の首根っこを掴んで別室に押し込んだ。 「痛って!」 「ってめぇなぁ…っ!!」 「ったた…なんだよ、大変だったんだからな、進坊に似た男児が載ってる春本なんて中々無くて、」 「ふ、っざけんな!なんてもん持ってきやがんだ猿吉っ!」 ちらりと足元に放った冊子に視線を移せば、一進によく似た顔の裸も同然の格好をした男児が目に飛び込んできてかあっと頬に血が上る。 誰がどう見ても一進にそっくりだからこそタチが悪い。 「気になるくせに硬派気取っちゃってー、いいって進坊には黙っといてあげるから」 な?と生暖かい目を向けてくる狗吉に苛立ちながらも否定はできない。 「っ、たりめぇだんの馬鹿!」 「素・直・じゃ・な・い・ん・だ・か・ら!」 「!っるせ、」 「狐太郎殿?」 「どわあっ!!?い、いいいいっしん!!?」 扉の隙間からひょこっと顔を覗かせた一進の姿を確認してすぐさま床に無防備に放ってあった本を背に後ずさる。さすがの狗吉もばれるのはまずいと思ったのか狐太郎を隠すように間に立った。 「し、進坊…?」 「?どうかされたのですか?顔色が悪いようですが」 かわいらしく首を傾げるあまりにも無垢な姿に、それとは全く対照的だった先刻の春画が頭に浮かぶ。 「!」 本人を目の前にしていかがわしい妄想をする罪悪感といったらなかった。 「な、何でもねえよ!進坊にはまだはや、」 「余計なこと言うんじゃねえ馬鹿っ!」 と、つい手の内にあった手頃なソレを狗吉の後頭部に叩きつけてしまってから我に返る。しかし、バサッ、と乾いた音を立てて畳に広がった本に一進の意識が向かうのは道理だった。 「!ちょ、バッ、コタさん何してんの!」 「い、一進待て…っ!」 「え?…………―っ!!」 見るな、と言ったところで時すでに遅く。 それが何なのかを理解してしまったらしい一進はぶわっと耳殻までを真っ赤に染め、目にはうっすらと涙が浮かぶ。 その純情すぎるほどの初々しい反応にドキリとして狐太郎は状況も忘れて魅入ってしまった。 しかしそんな狐太郎はもはや目に入っていない一進は、 「っ、ふ……不潔、です…っ!!」 一言そう叫ぶと、もつれる足を必死に動かして慌ただしく部屋を出て行った。 「………………」 「あーあ、コタさんてば馬っ鹿でー」 「馬鹿だろ、馬鹿だよ……なにやってんだマジで…」 今の己の溜め息には質量すらあるのではないかと思う。 「まぁまぁ、だからさ、今日はコレで慰めなって。」 まるで慰めるように置かれた無責任な狗吉の手を拒む気力もない。 どうやら今日は、狗吉の言う通りコレにお世話になるほか立ち直れそうもなかった。 おわり ――――――― かっこいい狐太郎さんが好きな方には大変申し訳ないことに…。 この晩狐太郎さんはきっと使ったよ!← 男児モノのエロ本があるのかどうか知りませんけれど。 |