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不変願望
 

『乙女座のあなた、女難の相がでてるかも!』 

アイドルだか何だか知らない頭の軽そうな女性がテレビの中でそんな無責任なことを言った。 
人の気も知らないでよくも…と理不尽な苛立ちをテレビの中のタレントに向けるものの、そんなことをしても仕方ないことは自分が一番よくわかっている。
ただ、それでもひとつ訂正させてもらいたい所といえば 

(女難?…男難の間違いだろ…。) 

ということだけだった。 



塚原要の一日は、大体にして幼なじみからのモーニングコールで始まる。 
それがもし春だったなら呆れは隠せないけれどまだ納得もできる。しかし実際オレの着歴には祐希と悠太の名前ばかりがずらりと並んでいて、着信がある度に祐希か悠太か、と憶測までするようになってしまった。 
それが唐突に始まったとき、一体何の冗談かと思ったのは本当。でもいつもオレを怒らせるばかりの二人がその時に限って真剣な顔をして、要が好きだなんて言うものだからオレはいつもの如く叩いて冗談にすることもはぐらかすこともできずに返事を保留した。なまじ顔が整っているだけに真面目な表情の二人の顔は不本意だがたしかに綺麗で、見慣れたはずの彼らふたりの顔を直視すらできなかった。 

「…――何なんだよ、オレにどーしろって…?」 

催促されているわけではない。それでもあからさまに想いを形にされては、いつか答えを出さなければならないのは決まっていて。 

だからといって、悠太も祐希もオレにとっては大事な幼なじみであってどちらかを選ぶことなんて本当にできるんだろうか。 
してもいいんだろうか。 
二人は、悠太と祐希は生まれる前から一緒だったに違いなくて、その関係を壊すようなことをただの幼なじみでしかないオレが 

「ゆうきもゆうたも、馬鹿だな…」 

どうして揃いも揃ってオレなんかを好きになるんだ。 

ピリリリ、ピリリリ… 

手元に置いた携帯の小窓でチカチカと点滅するのは、悠太の名前。 

「…もしもし」 

『あ、要?もう家着いたんだけど、まだ準備できてない?』 

「とっくに行けるよ」 

『―――へぇ、待っててくれたんだ』 

微かに笑いを含んだ声音にからかわれているような気がして、こんな奴らのせいでオレはこんなにも悩んでいるのかと先程までの葛藤が全く無駄なことのように思えてくる。 
――いつもいつもこんな調子で、危うい会話を淡々と交わす日々。 

何処か不安定で、不調和な気がしないでもない、でもそれを口にすればそれこそ今のこの不安定な関係が崩れ去るのではないかとそんな不安に取り憑かれて、何も言えずにいる。例え言っても変わることなんて何もないんじゃないかと思うこともあるが、確信できるだけの事実はない。 
それなら今のままでいたいと思うのは普通のことではないだろうか。 

「…うるせえな」 

『はいはい、じゃあ出て来てね』 

「わかってるよ!」 

ブッ 

一方的に通話を切り、乱暴に制服のポケットに突っ込む。電話口から響いたハスキーな悠太の声が、直接囁かれたみたいに耳の奥に残って知らず知らず頬に血が上った。 

玄関口を開けると、門扉の外に目立つ長身がふたつ。色素の薄い髪を無造作に風になびかせて立つ姿を見れば確かに格好いいし、中身を知っていても見目の好さだけは認めざるを得ないけれど、彼らに想われることを男のオレが手放しに喜べるわけもない。オレだって悠太のことも祐希のことも好きだけど、それは恋愛感情ではないのだ。彼らに言われるまで考えもしなかったことで。 

「…はよ」 

「おはよ、要」 

「おはよー」 

声は似ているけれど、間延びした喋り方で祐希だとわかる。何を言ってもやる気のなさしか感じられない祐希と違って、悠太の方はさすが兄とでも言うべき芯がある。別に、どちらのほうが良いという訳ではないけれど。 
オレを挟んで両端に並ぶ二人の顔を上目にちらと見上げると、何を思ったか手を差し出された。 

「…なに?」 

「あれ、手繋ぎたいっていう視線じゃないの今の」 

「っ、ちっげえよ!阿呆か!」 

誰がそんなことするものか。自分に都合のいいように生きるのも大概にしてほしい。 

「何だ、残念」 

「ったく…」 

両側から差し出された手を軽く叩いて歩き出そうとするも叶わず、ぐっと後ろに引っ張られた。両手を。 

「あっ、ぶねえな!引っ張るな!」 

「ほら要は転んじゃうから、手繋いで行かないと」 

「ねえ」 

「お前らが引っ張らなきゃ誰も転ばねえよ!」 

言い合う間も、どこまでも我が道を行くはた迷惑な双子はオレの手をぎゅっと握り直して歩き出す。 

「ほら、早く行くよ要」 

「っ…るせ」 

自分を挟んで微笑む祐希と悠太の姿を見てしまったら、もう無碍に振り払うこともできなくて。 
まだ選ばなければならないときは来ていないのだとただ安堵して、ほんの少しだけ繋いだ手を握り返してやった。 



Fin 



――――― 
双子はどっちもすきだけどどちらかといえば祐希派です 
東要もすきですこーちゃん単体すごくすきですあと祐希の元バイト先の店長もすきみんなすき(結局 
星座は捏造です要が乙女座だったらいいなって