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甘やかしの報酬 2
 




「っ、おま…いつまで突っ込んでんだよ…っ!」 

「いややわあ、突っ込むやなんて、そない下品なことそんなかわええ口で言わんとってや。」 

「うっさいわ!」 

すっかり調子を取り戻した市丸はまだ一護の中に自分のソレを突っ込んだまま、のうのうと一護の上に覆いかぶさっている。 
終わったんだから早く抜け、そう言おうとして口を開き、しかしそれは叶わなかった。 


「隊長っ!!何してるんですか、早く………――――っ!!!!!???」 


スパンッと小気味良い音を響かせてこの部屋と外界を隔てていた唯一の壁が暴かれ、情事後の淫らさを含んだ空気が出ていく。 
―――だがしかし、まだ換気するには早過ぎる状況な訳で。 

闖入者、市丸ギンの下に就く哀れな三番隊副隊長、吉良イヅルはさあっと顔色をなくして立ち尽くした。しかしそれは一護も同様で、こんなイレギュラーな事態に動じていないのは市丸だけだった。 

「なっ……っ何をして…!!」 

「なんで吉良さ……っ」 

「何てなあ…いくらイヅルやって、見たらわかるやろ?ナニしとんのかくらい。」 

微かに笑みさえ浮かべて、そう言い退ける市丸に殺意さえ湧いてくる。 

「ってめ…も、抜けよっ!」 

「何やイチゴちゃん恥ずかしいらしわ。イヅルちょっと外出てき。野暮なんは馬に蹴られてまうで?」 

「お、っまえが馬に蹴られて死ねよ…っ!!」 

胸に着くほど押し上げられた両足を、今だ自分の中に居る男を蹴り飛ばしてやろうと振りかぶって、しかしそれはあっさり阻止されてしまった。 

「蹴らんでや、イチゴちゃん。」 

にこっと凶悪に笑った男は、お仕置きすんで?と一護にだけ聞こえる声で囁いて腰をグラインドさせる。 

「あぅっ…!」 

イヅルが居る、という羞恥から弾かれるように自分の手で口を塞ぐがそれさえも男によって阻止されてしまった。 

「野暮なんには聞かせたり」 

「や、だっ…ぁっ、やめ…っ!」 

その一護のしどけない声音に放心していたイヅルがはたと意識を取り戻し、冷静に現状を把握したのか、かあっと頬を朱に染めて二人から目を逸らした。 

「っ隊長…!!」 

「なに?」 

「何じゃありません…っ!仕事はどうしたんですか!!」 

「ああ何かそんなんあったねえ。」 

「ならそんなことより早く片付けて下さい…っ」 

イヅルは尚も目を逸らしたまま、それでも律儀に市丸へ仕事を促す。市丸が彼を出来た副隊長だと言うのは理解できるが、だったら隊長自身はそれより『出来た』らどうかと一護は思う。しかしそんなことより今はこの絶倫男を止めなければ、とあわよくばこのままイヅルの前でニラウンドに突入せんとしている男を睨んだ。この男はやるとなったら本気でやる。イヅルなら尚更気にせずやる。 

「そんなことて何やの、酷いなあ…何や、かわいらし睨んで。誘ってんのん?」 

「ちっげえよ、ばか…っや、動くな…て、っん…!」 

どこまでも自分に都合のいい男はまた一護の中で欲望を大きくする。 

「ってめ、何…また、勃っ…!」 

「仕方ないやん、生理現象なんやから。」 

とっくに越えてる、と反論しようとしたがそれもまたできず、こんなんばっかだと頭の隅で毒づいて、だからといって諦めるわけにもいかない一護は頬に添えられた市丸の手に噛み付いた。 

「っ…、いかん子やなあ、イチゴちゃん…?」 

「っ、お前だろ…!も、やめろってば…っ、ん」 

「何言ってるん、ココ硬くして。」 

揶揄するようにくすっと笑って、長い指を不本意にも熱を持ちはじめたそれに絡めた。 

「さわんな…っ、ぁ!や…っ」 

「ちゃうやろ?イイ、って言いな」 

「隊長っ!!!」 

意を決したように放たれたイヅルの厳しい声に市丸の動きが止まり、助かったと安堵の溜め息を吐く。 

「何やの、邪魔者はとっとと出てき…イヅル」 

予想外に冷たく剣呑な声に、本来従う立場のイヅルはビクッと肩を跳ね上げる。それでも、副隊長の責任感からか推し負けそうになるのをぐっと堪えて再び言った。 

「仕事、して下さい。隊長が取り掛かってくれるまでは出て行けません…っ」 

「………は――…、わかったわかった、やるて。まったく誰に似たんよ、イヅル?」 

「強いて言うなら反面教師ってやつです。」 

「かわいくなっ!ちょっとはイチゴちゃん見習い?ものごっつかわええ…」 

「仕事すんだろ…!とっとと抜けよ…っ」 

恥ずかしさも頂点に達した一護は、ぺし、と間抜けな音をさせて市丸の腕を叩いた。当事者でないイヅルはともかくとして、よくもまあこの状態で呑気に会話を交わしていられるものだといっそ関心する。 

「ああ、ご免なあ、イヅルがうるさて。」 

「な、隊長がこんな場所で…っ、そんな…、は、破廉恥な…!!」 

「っん…っ」 

イヅルの反論をよそに、僅かに硬度を取り戻したモノをずるりと抜かれた。内壁を擦られる感覚に背筋に快感としか呼べないものが走り抜け、反射で上擦った声が口の端からこぼれ落ちる。 

「色っぽい声出さんといてや、抜きとうなくなってまうやん」 

「うっさ…、っぁ」 

完全に出ていくと、中から市丸が出したモノの残滓がどろりと流れ落ち、畳に染みを作った。その見るに堪えない恥ずかしい光景から視線に引っぺがし、急いで衣服をかき集めると、とにかくイヅルの視線から逃げるように背を向けた。 

「ほら、ちゃんとやるてイヅル〜」 

「…わかりましたよっ」 

乱れた衣服のままで渋々机に向かう市丸を認めて、イヅルの方も長居したい状況ではなかったのだろう早々に踵を返し、彼にしては珍しく荒々しい所作で障子を閉めた。 

「まったく怒りっぽいんやから」 

「お前のせいだろ!」 

「イヅルが怒りっぽいんは性分やしょーぶん。それが偶々ボクんとこついたからやな…」 

「ぜっったいお前のせいだ!!!」 

「酷いなあ、イチゴちゃん。あーんなにふっかあく愛し合ったっちゅうのに…」 

「わーわーわーーー!!!!!!」 

「照れ屋やなあ、イ・チ・ゴ・ちゃん」 

語尾にハートでもついていそうな、不必要に区切られた名前にものすごくいらつく。 
その苛立ちを本人にぶつけるべく机に向かった頭に足を振り上げるが、それが脳天に炸裂する前に市丸はタイミングに図ったようにくるっと首だけ回転させ、一護を振り仰いだ。それに何となく、その端正な面には手を(正確には足)上げにくくて思い止まると、やっぱりわかっていたんじゃないかと疑うような満面の笑みがその小綺麗な顔に浮かんだ。 

それが気に障るのは、一護自身その笑顔に弱いからだ。妙に優しげなそれは一護にしか向けられることはないともう知っているから。それは一護にだけ与えられる「トクベツ」だとわかっているから。 

逆らえないから、本気で怒ることができないから、 

気に障るのだ。 

また市丸は、それこそわかっていて行動するのだから意地が悪い。 
そう思いながら我ながらなんて不細工だと自覚する顔で、やっと真面目に机に向かい始めた市丸の背中を睨みつければ、はだけてあらわになった色白の背筋に先程自分がつけた爪痕が生々しく走っているのを見つけてしまい羞恥で顔に血が上るのを感じた。 
するとまた市丸はタイミングを図ったように振り返って、全てお見通し、とでも言いたげにニッと口角を上げ、 

「何想像してんの?イチゴちゃん、顔真っ赤やで?」 

からかう内容とは裏腹に、厭になるくらい甘ったるい声音でそう口にする。 

「うっせー…」 

だから、そんな何の効力もない憎まれ口しか出てこなくて。 

つくづく自分はコイツに甘いなあ、なんて、自嘲気味に笑みが零れた。 

そうすれば、一護が何に笑ったのか理解できない様子ながらも恋人は微笑み返してくれて。 

これでは甘やかしてしまうのも仕方ないよな、とまた笑った。 



Fin




―――――― 
ギン一はエロにしか向かわないみたいです 
本編だとこのふたりは殺伐としてるのでどうしても仄々甘々にしたいんですね。 

このあとイヅルはいちごのこと意識して三つ巴とかおいしい