甘やかしの報酬 「いーちーごちゃんあーそびーましょ」 「…てめえ市丸…よくもそんなこと……」 「せやかてせっかくイヅルもおらんのに何で仕事なんかせなあかんの」 市丸の部屋で、床に寝転がる家主を放って机に向かっている客人。しかしそれは家主である護挺十三隊・三番隊隊長市丸ギンその人がサボりにサボり、溜めに溜めた仕事を片付けているだけであり、凡その当人に責められる謂れはないのである。 寧ろ感謝されて然るべきだ。 そんなことは市丸とて了解済み。しかし別に愛するもの同士がふたりきりの状況ですることではないとも思うわけで。 「そんなんイヅルに任しとき。副隊長なんてその為におるようなもんなんやで?」 もちろんそんなはた迷惑な理由なわけもないのだが、今の市丸にとってはそれこそ副隊長の務めであってほしい。それに市丸よりもイヅルがやったほうが仕事は丁寧だし間違いもないし書類に落書きするなんてこともないだろうし、と無理矢理に正当化してみる。 が、 ヤンキーみたいな形をして以外にも真面目な恋人は中々厳しかった。それは市丸に対しても例外ではなく、寧ろ市丸に対してが厳しい。それは愛故だと信じているが、実際にはそう思わなければやっていられない現状である。全く、いくら不本意であるとはいえ隊長ともあろうものが情けない。 「そんな言い訳通用するか。いいから手伝え。」 と元来の目付きの悪さを遺憾なく発揮する。 ボクにしたらかわええだけなんやけどねえ…。わかってんねやろかこの子? 一護の言葉に何の反応もできないままつらつらとそんなことを考えていると、眼前に拳が飛んできた。いつもならそれは勢いを殺しながらも甘んじて受けるものなのだが、考え事をしていたためについ軽い動作でひょいっと避けてしまったのが一護の火に油を注ぐ結果となってしまった。 「っ、よけんなっ!!ああもうむっかつく野郎だなこの万年発情馬鹿狐っ!」 「あっぶないわあ、そら避けるやろ!?」 万年発情に関してはぐうの音も出なかった。現に今だって、怒った顔もそそるなあなんて一護が知ったら血管の一本や二本は切れそうなことを考えていて。 狐に関しては、常に閉じた状態のつり目気味の目や銀髪が狐に似た印象を与えることは自覚しているので特に反論できることがない。ただそれを面と向かって市丸に言えるのは―――許されるのは、一護だけというただそれだけの話だ。 「反論するとこあらへんよ、それ」 「自覚あんならちょっとは…っ」 「何で愛し合ってんのに我慢せなあかんのん?無駄なことキライやねんボク。」 「無駄じゃねえから我慢しろ!!」 「?」 愛し合ってる、に対しての反応が照れるなり怒るなり何かしらあると思ったのに、一護は特に気にした様子もなくて拍子抜けする。 「どうしたん?」 「あ?何がっ?」 「だって愛し合って〜にツッコミがないなんてありえへんやん。」 「!ってめ…!!人がどんな思いで聞き流したと……っ!!!」 何だ、聞き流しただけか。と心持ち安堵する。しかし結局意識させてしまって、一護の顔にカッと赤みが射した。 ――ああもう、かわええてしゃあない。 仕事なんか後でいくらでもやってやるから、口喧嘩なんかやめて今すぐ触れたい。そんな思いで、今だ照れている一護の袖を下から軽く引っ張った。 「なあ…そんなんよりええことしよや。イヅルが帰ってこん内に」 「っだから…!」 「ええよ、じゃあ一護は仕事しとき?…トクベツに、奉仕したるから。」 ニッコリと口元に深い笑みを刻んで、膝立ちの姿勢から一護の前に跪いた。 こんなんすんの、一護だけやで? 囁いて併せの隙間から手を忍ばせ、その細腰を撫でるように触れる。 「っ!…っやめ、」 「しごと、すんのやろ?ええよ、しとって。」 できんならな? それだけは心の中だけで呟くに留めて、和装の帯を少しだけ緩める。下肢をまさぐる市丸の手を咎めるように動いた手がぴくんと小さく反応し、宙をさ迷った後行き場を失ったのだろう、市丸のさらさらとした髪を引き離すように引っ張った。 「っ…市丸、…!」 「なに?」 「ぁに、じゃね…っ、」 切なく寄せられた眉間の皺が妙に色っぽくて、焦らす間もなく微かに熱を帯びはじめた一護の中心に唇をよせた。滴りが滲む先端に口づけ、それをすべて口腔に含むと舌先で先端を弄り、口全体を使って愛撫すると堪らず一護の口の端から吐息が漏れる。 「!っは…ぁ、んっ」 「ほら、集中せんと進まへんよ?」 くわえながら喋ると、濡れた先端を擽る吐息が堪らないのか触れてもいないのにまた蜜を溢れさせ、市丸の口腔を濡らす。 「漏らしたらあかんやろ、イチゴちゃん…」 「っあ、ぁ…、ぅー…っ」 滴る先走りを見せ付けるように丁寧に嘗めとって、くすっと笑うと一護の顔が羞恥に染まり、喘ぎを殺そうと唇をくっと噛み締める。それがたまらなく市丸の欲情を煽るとは知らないのだ、この初な恋人は。 「唇噛んだらあかんよ、切れてまう。」 優しい仕種でそっと唇をなぞれば、噛み締めていた力が緩んで市丸の指を迎え入れる。 「っ、ふあ…ぁ、んン…」 「噛まんでな?…指ケガしたら、思うようにいかへんのや」 「!」 市丸の言うところを理解したのか、困ったようにくっと市丸の指を甘噛みした。 「ええ子やね。」 ご褒美、とばかりに再び一護の屹立を口に収め、ねっとりと舌を這わせると口内で高ぶりがまた体積を増しひくんと脈打つ。 「あっ…、も…だめ、…やっ!はな…っ」 「出してええよ。全部、呑んだるから。」 「ふあっ、あ…、や、イく…っあ、やぁ――――っ…!!」 市丸の髪を掴む手に力が篭められたのを合図に、尖らせた舌先で一際強く先を刔るように愛撫するとびくんっと激しい脈動の後、口腔内で精が飛沫き、独特の苦みが広がった。それを全て受け止めてから、達して僅かに萎えた性器から口を離しこれみよがしに嚥下すると、しばし呆然としていた一護が自らが吐き出した白濁で口の端を汚す市丸からパッと視線を逸らす。 「んー甘露やなあ、イチゴちゃんの。」 「!っんなわけねえだろっ!信じらんねえ、あんなもん…飲むなんて…っ」 俯いても隠せない耳殻がじわじわと朱に染まる様を堪能していると、俯いたせいで視線の先にある市丸の高ぶりに気づいたのか赤らんだ目元のまま僅かに顔を上げて上目遣いにこちらを窺ってきた。その視線の意味するところはわかっていたが、少しの悪戯心が湧いて敢えて尋ねてみる。 「どうしたん?かわええけど、そない見詰められたら興奮してまうわ。」 そんなすっとぼけた事を、生々しい欲望を溜めた下半身とは裏腹に努めて涼しい顔で言ってみた。 「ふざけんな…っ、それ…」 「うーん、そやねえ、いきなりフェラせえなんて無茶言わんけど…」 「フェ…っ!??」 肩を強張らせて微妙に後ずさる一護に多少の落ち込みは隠せない。 「だから言わんて。…あ、」 「…?」 「ひとりえっち、イチゴちゃんが見とってくれたらええわ。」 名案、とでも言いたげに人差し指を立て、にっこり笑ってみせる。 「っ!!?はあっ!?なっ、何言っ…い…」 「簡単やろ?別に何かしてくれなんて言うてへんやん…なあ?」 同時に和装の帯を解く。シュル、という衣擦れの音に一護が息を呑む音が重なった。 「市丸…っちょ…、あの、」 「何?」 「まって、ちょっと待ってっ」 「ひどいわあ、この状態のまま放っとけ言うん?」 布を押し上げている雄をわざと一護に見せ付け、妖艶に笑んでみせると、やっと赤みが治まってきた頬にまたかあっと血が上った。 「っ………する、から…」 「…はい?」 「するっつってんのっ!」 耳を疑った。一護が何を言っているのか、市丸が聞いた風ではあまりにも自分自身に都合が良すぎて俄には信じることができなかったのも仕方ない。まさか一護自ら「する」なんて、そんなことを口にするなどと今までの彼を見てきてどうして思えるだろう。快感に従順ではあるが、一護から求められるようなことは理性を失った後にしか経験はない。 「今なんて言うた?」 「っ二回も言うかよ…!っいいから…」 「っ?へっ、あの…」 胡座をかいて座った市丸の足の間に顔を寄せてくる、いつになく積極的な一護に戸惑う。 ―――いや、嬉しい。この上なく嬉しい。多分今一護に嘗められでもしたら、みっともないことにすぐ達してしまうだろうという気さえする。いや、だからこそ――とでも言うのだろうか、とにかくまずい。これはまずい。 「一護待ちっ!あかんて!」 「もう黙れってば…!」 それとも嫌なのか、と挑発的な目付きながらも不安の色をちらつかせる飴色に下から覗き込まれて、「そんなわけないやろっ!」と全力で首を振ればそれを了承と受けとったのか、市丸自らが緩めた帯を完全に解いて併せを開き経験もないというのに躊躇いなく完全に勃起した市丸の性器を口に含んだ。 「っく…」 「んぅ、ん…っふあ、」 拙い動きで、口腔には収まりきらないそれを必死に嘗める姿に下肢に熱が淀み、それを口にしている一護は直接その変化を感じたのだろう苦しげに眉を顰めた。 「っんぐ、…っは、かはっ」 「無理せんでええから…っはなし」 「んっ、んん」 口を離した一護の頬を手で包み込んで顔を上げさせ、端から零れた唾液で照る口許を拭う。しかし生理的な涙を浮かべた一護は尚も口淫を続けようとゆるく首を振った。 「何で…?キモチよくねえ、の…?」 手の内に包み込んだ頬が濡れる。別に、悲しくて涙を流しているわけではない。けれど、その涙はかろうじて残っていただけの理性を完璧に打ち崩すには十分の威力を持っていた。 「どの口でそないなこと言えんねん…っ」 「じゃ、いいだろ…?」 と、ひとり納得して今にも弾けそうに滾ったそれをちろ、と小さく嘗めた。その思いがけず卑猥な光景を目にして背筋が奮え、一護を引き離す間もなく欲望が弾けた。全てを銜えきれていなかった一護の顔に、白濁が飛び散る。 「っ!…っぅわ…っ、」 「え…っあ、」 一瞬何が起こったのか把握しきれなかったのか反応が遅れ、理解すると自分の顔を伝う粘液を指で拭って何故かまじまじと眺め始める。いくら市丸といえど精液をそうも凝視されては羞恥も湧くというもの。 「い、一護?何してんのん?汚いで、はよ拭き。堪忍な、…って、ちょ…ちょお待ちっ!あかんて!やめや!!」 拭ったそれを眺める一護に布きれを差し出すが、彼は何を思ったか受け取らずあまつさえそれを、先程まで散々市丸のモノをしゃぶっていた舌で嘗めとった。市丸の予想を超越した行動を起こした一護に反応が遅れ、半拍遅れて手を口許から引き離すが間に合わず。 「……っ、にがい」 僅かに眉間にしわを刻んでそんなことを言う。 「何してん?!そないなことせんでええて!」 「何で…市丸だって、オレの飲んだろ…」 「それとこれとは話がちゃうやろ!強要するつもりなんかあらへんよ。」 「強要されたつもりなんかねえよっ…、別に…ただ、オレだって」 お前のこと気持ち良くしたい… だんだんと小さくなっていった語尾に、しかしはっきりと聞き取ることのできた言葉。 何を言ってくれるんだ。そんなことを言って、男がどうなるかわかっていないのか、それともわかってやっているのか。しかしどちらにしろ市丸の煩悩を刺激したのだけは間違いなくて。 「…自分が何言ってんかわかっとるやろな?そないなこと言うて、止まらんでも知らんよ?」 「っ…わかってるよ…っ!!」 ごしごしと粘液を拭う仕種で朱くなった顔を隠しているつもりなのだろうが顔なんか見なくてももう十分だ。 「覚悟せえよ?誘ったんは一護、おまえや…」 「っ、いちま…」 「ギン言いな。」 「!……っ、…ぎ、ん」 吐息まじりに名前を囁き照れからか、瞼を伏せる。そうすると、色素が薄いからか普段は目立たない長い睫毛が上気した頬に影を作った。そして、睫毛を震わせて市丸を窺い、その視線に吸い寄せられるように閉じた瞼に唇を押し付ける。 「…ええんやな?…挿れんで?」 「ん、…」 直截的な言葉に動揺したのか瞼がぴくりと痙攣するのを押し付けた唇で感じる。しかし市丸も限界に近く、それを気遣ってやれる余裕はなかった。 下肢に纏わり付く邪魔な衣服を取り払い、性急に後ろへと指を這わせる。 「っぁ、…っ」 「いつまで経っても慎ましなあ…イチゴちゃんのココ…」 くっと喉の奥で笑みを殺し、幾度となく犯されてもなお侵入を拒む狭い入り口を揶揄するように囁いて、指の腹でそこをさすり爪の先だけを埋め込む。 「っばか…!…っ、や」 「関西人にバカは禁句やで?アホしか言われ慣れとらん。」 言って、さすっていた指をぐりっと突き入れる。すると左右に割り開いた足が跳ね、勃ちかけていた中心に露が浮かんだ。 「!や、ぁっ…ふ」 唾液を絡ませた指を二本にして熱い内側を擦る。快楽に耐え切れずにこぼれ落ちる喘ぎと掻き回す場所からのぐちゅぐちゅという水音が市丸の欲望を育て、更にそれが一護の羞恥を煽るのか涙の浮かんだ目をぎゅっとつむった。それが気に入らなくて、剥き出しのまま触れていなかった胸の突起を口に含み舌で愛撫を与える。 「っぁ!…や、そこ…っぃや、や」 「何で?イチゴちゃん、ココ敏感やん。きもちええやろ?」 「ちがっ、…ぁあっ」 右手で後孔を解し、空いた手と舌で両の乳首を弄る。愛撫によって硬くしこったそこに歯を立て、きつく抓るように刺激すると、その間接的なもどかしい快感に一護は腰をくねらせ触れていない性器が淫靡に揺れた。 「っひあ…や!いた、ぃ…っ、やめ…あっ」 「ココこんなにして何言うてるん…?痛いほうが感じんの?」 「ちがっ…!ち、がうっ…そんな…っぁ…ひっ…や」 快感に呑まれまいとするものの、身体の芯までもを揺さぶる激しい波に意識を飛ばしかけている一護に追い討ちを掛けるように内壁のしこりをぐりっと強く押す。 「っ!ひっ、やぁっ!」 絶頂まで一気に押し上げられるようなともすれば苦痛にもなりうる快感に陥落し、二度目の射精に一護は身体を震わせた。飛び散った精が一護自身の腹と覆いかぶさった市丸の腹をも濡らし、少し薄くなったそれを掬って後ろへ手を滑らせると、唾液とは違う、ぬめりを帯びた感触に弛緩していた後孔は再びきゅっと締まった。 そこに自らの怒張を挿入したときの感覚を思って、ずくんと下肢が疼く。 「一護…、も、ええか?」 色気に掠れた声で囁けば、身体に小さく震えが走る。 「っん…っ、ン」 はやく一護の中を感じたい。彼が思うほど、余裕なんてないのだ。 ―――やって、先に惚れたんは…ボクの方やろ? それを思って、苦笑が漏れる。 するとそれをどう捉えたのか市丸の肩に回されていた手に力が入り、首の後ろをくっと引っ張って求めるように唇を押し付けてきた。 「はや、く…っ」 「っ!…、煽るんやない…っ」 「んっ、ふあ…」 噛み付くように口づけ、薄く開いた唇の間から舌を忍び込ませて絡めると、ぴちゃ、と互いの唾液が混ざる音が耳に届いた。 一護がキスに没頭している間に、緩んだ後孔へ己の硬くなったそれをあてがうとその先を察して一護の身体が強張る。そしてそれに連動して、入り口が収縮した。 「挿れんで…、一護…」 「はっ…ぁ、んっ…ぅん」 「っ…力、抜き…」 狭い入り口は挿入る側にもつらいものがあって、しかしそれさえ感情を高ぶらせる材料になる。その情動に突き動かされるままじりじりと腰を進め、太い亀頭が挿入りきったところで一気に楔を打ち込んだ。 「あっ、やっ!んっ、んーっ…っ!」 「っはあ、はっ…っ」 衝撃で一護の身体が浮き、市丸のそれに押し上げられるように甲高い嬌声が迸る。 ずん、と腰に響く振動。 馴染むのを待つ余裕もなくストロークを速めると、結合部からぐちゃっ、ぬちゅ、と卑猥な音をたてて塗り込めた一護自身の白濁が泡を立てた。 「っや、まっ…って、ひんっ、あ…っ!やあっ!…、んっ」 「ご免なぁ…っ、止まらへん…!」 「っあ、や…っ、やだ…!や、…っおっき…!ひっ、あん」 腰を打ち付けるリズムに合わせて嬌声が上がり、はぁはぁと互いの荒い吐息が部屋の空気を妖しく湿らせる。抜き差しする度に漏れる水音と嬌声、肌がぶつかる音、それから、障子一枚隔てた外界からわずかに聞こえてくるくぐもった声。すべてが身体を高ぶらせ、時折部屋の前を走り抜ける足音に一護の身体は強張って市丸に縋るように抱き着いてくるのが堪らなかった。 「っく、…」 「っや、あ…、もぉだめ…っぇ、あっイく…!いっちゃ…っあ」 「ええよ、いき…っボクも、そろそろ限界や…」 「んっ、ひゃ…っあ!あぅ…」 羞恥を感じる余裕もなく腰を揺らめかせ、一護は自らイイ場所を市丸の硬い性器で突く。 「ん、ふぁ…ああぁっ」 「っ、…はぁっ、はっ」 もう何度キスしたかもわからない、どれだけ抱きしめ合ったかもわからない、とにかくがむしゃらに、恥とか理性とか、そんなことは何も考えられなくて、ただ欲望のままぐちゃぐちゃになるまで抱き合った。 「ぁ、―――っ…!」 「っ―…」 声にならない叫びと共にびくんっ、と一護の身体が奮え、勢いよく飛沫いた精が自身の顔までもを汚す。次いで市丸も、射精の瞬間敏感になった一護の最奥に自らの精を注いだ。 →next |