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自己弁護うまいな、褒めてないけど
 
※若将←郭+真 
※将くんはほとんど出て来ません 
※あほい 


「なあ、俺って人見る目あると思う?」 

ベッドの上で胡坐をかいて雑誌をめくっていたと思ったら唐突にそんなことを言い出した結人を英士と一馬が揃って振り返る。そして怪訝そのものという顔で結人の真顔を確認すると、くるりと背を向けて声をひそめた。 

「急になに言い出したの、結人は」 

「知らねえよ、俺に聞くな」 

「なー、おい、聞いてる?」 

「聞いてるよ、なに?見る目があるかって?」 

結人の行動や言動が突飛なのはいつものことだと慣れきった親友らはたいした戸惑いもなく答えてくれた。 

「知らないけどね、とりあえず女見る目はないんじゃないの」 

「えっ、マジ?!」 

「ていうか結人の場合見る目とかの問題じゃないだろ」 

「えっ、なんで?!」 

雑誌を放り出して詰め寄る結人に英士と一馬は瞬時顔を見合わせてから二人して向き直り、きっぱりと言い放つ。 

「付き合う女巨乳ばっかじゃん」 

「見る目以前に見てないよね」 

「………」 

身も蓋も無いというかなんというか、仮にも親友に対してたいがい酷い言い草である。 
しかし思い返してみれば、意識していたわけでないにしろ否定できないことに今更ながら気が付いた。 

「で、でも俺から告ったことはねえよ!?」 

「ああ、なにもう遺伝子レベル?組み込まれてるの?」 

「英士がひどい!」 

「来るもの拒まずってのはどうかと思う」 

「一馬まで!」 

たしかに告白されたその時彼女がいなければよほどでない限り断ってこなかった過去、来るもの拒まずという表現は正しいのだけれどもう少しなにか言いようはないものだろうか。どう考えても今の二人の言葉には刺がある。 

「なんだよもう…二人共俺のこと嫌いなわけ?」 

「嫌いだったら親友なんてやってないよ。けど今は人を見る目の話してるんでしょ、それとは別」 

英士の言葉に感動したのもつかの間、やっぱり辛辣だった親友に結人はがくりと肩を落とす。 

「あー傷付いた!俺は今深く傷付いた!」 

「自分から言い出しておいてなに」 

「自業自得だろ」 

英士のベッドから隣の自分のベッドまでダイブし、枕を抱えて泣き真似しつつ大袈裟に叫ぶと顔を見なくてもわかるいかにも迷惑そうな声が聞こえてきて危うく嘘泣きじゃなくなるところだ。本当に親友かお前ら、と言ってもさっきと同じような反応が返ってくることなんてわかりきっていたのであえて傷付きたくもない結人は言わずにおいた。 

「なんなの!?英士も一馬も俺を再起不能にしたいの!?」 

「どこの、下半身の?なら安心しなありえないから」 

英士が容赦ないのはいつものことだがそれは単に歯に衣着せぬというだけでそれとはまた少し違う気がする。やたらと冷たい。 
ただ付き合いだけは長い、このくらいの毒舌でへこたれるような結人ではない。 

「二人がお堅すぎんだよ、英士なんて特にモテるくせに断ってばっかで、なにそれ!意味わかんねえ!」 

同級生より随分と大人びた印象を与える彼はそのすっきり整った容姿と相俟って女の子からの人気は一段と高い。一馬にしても結人にしても同じだが、U-14という輝かしい経歴もそれに拍車をかけている。 
にもかかわらず一馬や英士に彼女ができたという話はたったの一度も聞いたことはなく、結人にしてみれば信じられない話だった。 

「俺はちゃんと人見てるから」 

「俺も」 

「うがーっもう!べつにさあ、付き合ったからってエッチしたわけじゃないし巨乳ったって使ってないのに何の意味が…」 

ごん 

ドアの方向から響いたノックというには重く鈍い音。この場合叩いたというよりは、ぶつかった、という表現が正しいだろう。 
嫌な予感しかしないで固まっているうちにさっさとドアを開けに向かった英士を視線だけで追っていくと、悲しいかなこういう時の嫌な予感ほど的中率の高いものはないのである。 

「はい、…あれ、風祭?」 

「!!」 

結人を見る一馬の目に憐れむようなわかりやすい同情が浮かんだが、同情するなら金をくれと訳のわからない往年の名台詞が頭を巡るばかりで声が出ない。 

「…郭くん…っ、あの、ごめん、若菜くんに用事があったんだけ…ど、…あ、き、聞くつもりはなくて…っ」 

「ああ、気にしなくていいよ。結人が馬鹿なだけなんだから」 

後ろ姿しか見えないはずの英士の顔が清々しいほどの笑みに彩られているのが振り返らずともわかる。そして英士の影に隠れて見えない風祭の表情もまた想像するのは容易かった。 

「それより大丈夫?額ぶつけたみたいだけど」 

「え、っ…うん、それは、だいじょうぶ…」 

「そう。結人に用事なんでしょ?どうする、呼ぼうか?」 

「!いい!…っ、あ、ううん…、大丈夫…っご、ごめんね、じゃあ…」 

「うん、またね」 

その甘ったるい声は何なんだとか俺の風祭を口説いてんじゃねえだとか言いたいことは尽きないけれど。 

今はそれより 

「風祭、今は結人に会いたくないってさ」 

しらっとした顔で嘯く英士にそんなこと言ってねえだろ、と噛み付こうとして、しかしあの風祭の反応を見れば言われたも同然である。 

本来ならあんなのを聞かれたところでそれがどうした、という話だ。その程度のことなのだ、男子中学生の軽い下ネタなんて。けれど相手は風祭。彼に限ってそれは当て嵌まらないことは英士や一馬を含む選抜メンバー全員の共通認識としてある。 
今時めずらしいほど無垢で素直で純粋で、何者にも染まっていなくて、しかしそれをからかうどころか皆が皆してこいつだけは汚すまいとしている過保護ぶり。かくいう結人も例外ではないのだが、それだけではなく風祭にだけは自分の過去の色恋話を知られたくないというのも理由として大きかった。 

風祭の恋人という立場にある結人にとっては、殊更強く。 

「ぜったい若菜くん不潔!とか思われたんだ嫌われたんだもう俺フラれるんだ…!」 

「ゆ、結人…?大丈夫か…?」 

「風祭の前ではそういうの匂わせたこともなかったのにこんな不意打ちって…!」 

マイナス思考に陥った結人を気遣う一馬とは対照的にトドメを刺したに等しい英士はあくまで涼しい顔だった。 
フラれればいいとでも思ってるんだろう。本音では一馬も、もちろん風祭に恋慕する選抜メンバー全員、風祭と結人が別れるのを望んでるに決まっている。 

「今まで遊んできた報いでしょ。せいぜいしばらく風祭に避けられて凹めばいいよ」 

「英士の鬼!人でなし!」 

「なんとでも。この件に関して俺達に責任は一切ないからね」 

全部結人の過去の行いのせい、と言われてはぐうの音も出なかった。 

「ああ、さっきの話だけど、結人の人を見る目は確かだと思うよ。ただ風祭にはないんじゃない?」 

あげくの果てには、これだ。 

慰めてくれたのかと思えば結局遠回しに貶されて、そこまでぼろくそに言われるほど一体俺が何をしたって言うんだ、とひとり枕を濡らした。 






それって結局俺を親友に選ぶなんて見る目あるなって言ってんの?


おわり 



―――――― 
若菜くんは普通に彼女がいそうです。 
それにしても後半一馬が空気ごめんなさい 

ただ結人を親友に選ぶなんて英士見る目ないな!ってことにもなってくる話でした 
むだにながい