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Look for baby
 


本日も絶賛開店休業中の浦原商店。――当たり前といえば当たり前、浦原喜助は暇だった。 

平日の昼間、五月蝿い子供達は学校だ。それは大変結構なのだけれど、それは小学生ばかりではなく学生に総じて言えることである。 
そう、もちろん高校生も。 

「…今頃学校スかね」 

黒崎さんも。 

不良っぽいなりをした彼は存外成績がいいらしい。とは、朽木さんの談。 
学校での姿なぞ自分はそういう形でしか知ることはできず、いつでも彼と共に居る朽木ルキアという少女にさえ嫉妬してしまう。 

(大人気ないっスね我ながら) 

とそんなことを考えて暇を持て余していると、 

「浦原さん」 

唐突に、たった今まで思いを馳せていた人物の声がした。 

「!黒崎さん?」 

「あ、いた。」 

いくら開店休業中であろうと、一応鍵は開けてあった入口からひょこっとオレンジの頭を覗かせた、浦原の想い人。眩しいくらいに白いシャツが、ベルトを締めた細腰が、ストイックな制服姿が浦原には堪らない。 

(…ってオヤジか、私は…) 

紛れも無いオヤジだという自覚はあるが、何も男子高校生のごく普通の制服姿にムラムラするような変態に成り下がった覚えはないぞと理性が叱咤する。 

「どうしたんスか?学校は…」 

「今テスト中。」 

「あ、だから。…でも珍しいスね、ひとりっスか?」 

いつも、彼が浦原商店に来るのは朽木さんに連れられてくる時くらいで。ひとりで来たことは殆どない。 

「ああ…いや、ルキア来てねえか?」 

「…ああ、なんだ」 

やっぱり彼女か。と、大方予想のついていた展開にそれでも落胆は隠せなかった。 

居ないといえばすぐに帰ってしまうだろうし、けれど嘘をついたとしてそんなものはすぐにばれる。 

大真面目に、何とかして帰らせない方法はないものかと考えている自分が情けない。正直に、ちょっと寄って行かないかとそう誘えもしない。 

「…いや」 

「?いない?」 

「…ええ、今日は来てませんよ?」 

「そっか、悪かったな。じゃあ」 

あっさり、何の未練もなく。 
今さっき閉めた引き戸に手を掛ける。 

無意識に足が動いた。 

立ち上がり、自分より幾分か細い腕を掴んで我に返る。不思議そうに見返してくる視線が痛かった。 
「?浦原さん?」 

「え、あ、何処行くんスか…」 

「は?」 

「!うわっ、何言ってんスか私っ」 

まるで、ここに居るのが当たり前みたいな。いかにも妄想じみている。 

「っ………ふはっ」 

「!」 

しかしそんな後悔を知る由もない一護は突然笑い出す。精悍な顔は笑うと途端に可愛らしく綻び、その快活な笑顔に年甲斐もなく胸が高鳴った。 

「黒崎さん?」 

「こどもみてえ。…っはは、また来るよ。」 

腕を掴んだ手を、もう片方の手できゅっと握られる。あまりごつごつした感じのないすらりとした指を無性に握り締めたくなった。しかし、そのタイミングを図ったように温もりが離れていき、引き戸が開く。 

「…じゃあ、次は、お茶くらい出しますよ。」 

「!…いいのかよ、長居するぜ?」

そう言っていたずらっぽく笑う彼に愛しさが募る。 
――むしろ、長居してくれるならお茶でもケーキでも、手は尽くしますとも。 

「歓迎しますよ?黒崎さんひとりなら」 

「…おう」 

暗に、ひとりで来たらどうなるかわかってますよね?という意味を籠めると、わかっているのかいないのか、一瞬表情を固めたが、すぐに頬を緩めて微笑んだ。微かに赤らんだ目元が、期待を産む。 

「…じゃあな」 

別れの挨拶も早々に引き戸が閉まった。 

「ッハハ…黒崎さんには、敵わないっスよねえ…」 

もしかして、弄ばれているのだろうか。駆け引き――か、 

―――…まあ、それもいい。 

(今はまだ、私のもんじゃないスからね) 

捜し物が見つかったら、私の元へおいでなさい。 

(いつでも歓迎しますよ?黒崎さん) 

私の腕の中なら、ね? 



Fin



―――――― 
浦原さんすき!!