僕の後ろのきみの席 ※燐side 授業中に視線を感じるようになったのはいつからだったろうか。 殺気でも含まれていない限りそういったことにはとんと疎い燐が気付くくらいあからさまに向けられる、絡み付くような視線。 誰からの、なんて愚問だ。 振り返っても逸らされることのない突き刺さるようなそれはどうやっても燐に向いていて。 (何なんだよ…!) 何か用があるなら言えばいいのに、特にそういうわけでもないらしい。それに何より意味ありげな視線なんかじゃなく、ただ見ているだけなのだ。 授業が終わって燐が彼らの元へ歩み寄ればそれはすっかりなくなるし、談笑している間には授業中に感じる異様なほどの視線とは打って変わってこちらを見ようともしない志摩。 目を合わせようとしないのは志摩のほうなのに、燐が志摩を見ていなければ遠慮もなにもなく戸惑うくらい真っすぐな視線を送ってくる。 ただ、授業中に燐が振り返るのは主に勝呂だけれど、今まで一度として目を合わせたことはない。 視界の端で捉えるだけの、まるで燐と目が合うのを待っているみたいに凝視をやめない志摩の顔はいつもどこか憂えたもので、どうするべきかと惑いながらもその強い視線と一度交えたら最後、搦め捕られるのは自分のほうだとわかっているからできない。 (見んな、見てんなバカ) 視線を一身に受ける背中の温度だけが熱い気がする。志摩の意図は何だ。 感触などないはずの視線が全身をくまなくなぞるように這っていくのがわかると背筋に痺れが走るのさえ、今ではもう茶飯的になってしまって。 (っ…!何だよ、もうっ) いっそ抗議のひとつでもしてやろうか、とできるはずもないことを考えた、そのときガタン、と誰かが席を立つ音がして、その音に意識のすべてが背後に集中していたことに気付かされた。しかしそれでも背後に集中した意識は簡単には散らせず、音の発生源であったらしい勝呂の声が集中した意識の先で聞こえたのを言い訳に振り返ってしまったのが、燐の唯一の非であったと信じたい。 「っ!」 振り返った先に見たのは勝呂ではなく、やっぱり憂いを含んだ志摩の瞳。 例に違わず燐を見つめていた印象的なたれ目が、目が合った半瞬後に一回りほど大きく見開かれた。 しかしそれに驚いたのはむしろ燐の方だ。 (何でお前がそんな驚くんだよ) 『ばあか』 罰の悪さを隠すためについた悪態は志摩にも正しく伝わったらしい、頭をまるっきり預けていた頬杖がかくんっと外れる。 …みっともない。 (お前がめっちゃくちゃ見てたから見れなかったんだっつの…) 燐が授業中背後斜め後ろを振り向く度に見ていたのは勝呂じゃない。すげえすげえとおおっぴらに言ってはそれにかこつけて燐が盗み見るのはいつも志摩で、勝呂を見る傍らにちらつく派手なピンク色にどれだけ焦がれたと思う。 (…あんま見んなよ、俺が志摩のこと見れなくなんだろ) (何で俺のこと見てはったん?) (見てねえよ!!) おわり ―――――― もはや視姦^^ |