kuroko | ナノ
 
green
 


バッシュの紐をどちらから結んだのかも今何本目のシュートを放ったのかももう覚えていない。
わかっていた、もうこれ以上の練習を重ねたところで調子は崩れていくばかり、ーーいや、これ以上崩れようもないかと自重の笑みを浮かべようとして、それも失敗した。もはや練習とも呼べない、こんなのはただボールを投げるという動作を繰り返しているだけだ。
チームメイトたちはあの緑間が一本も入れられないなんて、と驚愕と揶揄の混じり合った物珍しそうな視線を向けていたものの緑間の気迫の前には何も言えず、身体に染み付いたシュートフォームだけは下手に出来過ぎているものだから単に調子が悪いのだろうと遠巻きにするだけだった。

(…それでいい、下手な情けも慰めも要らない)

これは、今のこの行為はただ向かう方無い感情を発露しているに過ぎない。怒りでもないー怒りを感じるなんてお門違いにもほどがあるー焦りでもない驚きでもない哀しみでもない、けれどその全てを孕んだ遣る瀬ない思いをその手に籠めて、緑間の内心と相反するように静然と存在するゴールリングに向けてボールを撃つ。
それを、何度繰り返しただろう。

そしてまた、リングに拒まれたボールが床に転がる。跳ねていた勢いを失ってコロコロと虚しく転がっていくボールの行方も気に留めぬまままた一つボールを手に取れば、その横っ面を弾き飛ばすように何かが飛んで来た。辛うじて腕で庇うことはできたけれど、手加減なしに投げられたずしりと重いバスケットボールは疲労の重なった緑間の腕を痺れさせるには十分で、手にしていたそれも取り落とす。きんと張り詰めた空気の中でタイミングのずれた二つの音が奏でる不協和音をひどく耳障りに感じて眉を顰めた。
その先には何故か思い詰めたような、こみ上げる激情を堪えるような、緑間よりもはっきりとした怒りと困惑と辛苦とを露わにした高尾の姿があった。
現相棒ともいえる相手の姿に、外見上は似ても似つかないはずの空色が重なって目を逸らす。

「…高尾か、なんだ」

一度はぶつかった視線を不自然に逸らす緑間になにを思ったか、次第に近くなる足音に高尾がこちらへ歩んできていることを知る。

「なんだじゃねえよ、何やってんだよ」

感情を押し殺して掠れた声に僅かばかり申し訳なさも感じたけれど、苛立ちの方が大きかった。所詮今の自身の気持ちを共にするのはキセキたちしかいないのである。

「見てわからないか?まだシュート練習が終わっていないのだよ」

言いながら手を伸ばしたが籠の中のボールはもう残っておらず、伸ばした手はただ空を掻いた。

「ふざけんな、そんな、めっちゃくちゃな撃ち方して練習になるわけねえだろ…っ、ふざけんなっ!」

「お前には関係ない」

「ああ関係ねえよ、ねえけどな、お前がなに考えてるかはわかってるよ…!」

なら尚更放っておけ、とは、言えなかった。高尾がどうとか以前になによりも、この男こそが彼に最も近しいのである。今彼の傍にいてやれるのは、居ても、許されるのは、この男だけなのかもしれないと思うとそれが妬ましくもあり、けれどやっぱり彼の助けになってやってはくれないだろうかと仄かな希望すら抱かずにはいられなくて。

「俺は今聞いたよ、でもおまえは部活始まる前に聞いてたんだろ。それからずっとおかしいもんな、何、責任とか?感じちゃってるわけ?今更なん…、」

「っ黙れ!!…、お前には関係ない、これは俺たちの問題なのだよ口を挟むな」

「無理だろ、おまえぼろぼろじゃねえか。……っわかるよ、緑間だけじゃない…やつら皆そうなんだろ、でもな、そんなんなるくらいだったら、自分で自分痛めつけるくらいだったらそれより黒子んとこ行ってやれよ…っ!」

胸倉を掴まれて見据えた高尾の、夕陽を切り取ったような瞳は不安定な光を映してゆらゆらと揺れていた。
どうしてお前が泣くんだ、という科白の代わりに出てきたのは、言葉にもならない嗚咽だけだった。



(加害者でしかない俺にどうして涙を流す権利があるだろう)






Kiss 
in 
Darkness 







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サボっててすみませんでした…。
なんだか緑高っぽいですがみんな黒子っちのこと溺愛してます。高尾は緑間のことも黒子っちのことも同じくらい大事にしてます。たぶんいちばんいい男。