とある空言、ぼくの秘密 ※『とある空言、ぼくの秘密』パロディ ※以下文章に出てくるパラドックスというのは主の本心をまるっと喋っちゃう人型みたいなものです。黒子っちにだけ声が聞こえます。それだけわかれば原作を知らなくても問題ないと思います。 人の考えていることがわかったらいいのに、なんて軽々しく言えるのは大前提わからないことを当然としているからだ。 本当に人の本音や本心が聴こえたら、口が裂けたってそんなことは言えないに違いない。 目の前でつい昨日恋人に別れを告げられたらしいクラスメイトが例によって彼女の考えてることがわかったらよかったのに、とぼやくのを黒子は溜め息を殺して聞きながら思った。 「…人の気持ちがわかってもいいことなんて、ないですよ。」 「?ふーん、まあ黒子はそうだよな、あんま人に興味とかなさそうだし」 『いい奴なんだけど、どっか冷めてるってか他人事なんだよな。人間味ないし』 ふいに聞こえた別の声を、意識的に排除して目を閉じる。 これこそ本来聞こえないはずの声だ、人に聞かれることを考慮する必要のない言葉に遠慮や気遣いはなく、慣れたもので意識して表情を固めずとも表情には出なくなった黒子の心を変わらず今でも抉る。 「…そうですね。僕は知りたいとも思いません」 どころか、知りたくない。 人の心を聴いて良いことなんて今までひとつだってなかった。 できるものならこんな力、誰にだってくれてやる。 無意識に噛み締めた唇を咎めるように軽く頬を叩かれ、すぐに思い当たった彼の姿を求めてぱっと顔を上げる。思い描いた通りの男の姿に、知らず知らず力が入っていたらしい肩からふっと力が抜けるのを感じた。 「悪いテツ、遅くなった。帰るか」 「青峰くん…」 あからさまにほっとしたような表情を見せる黒子に、青峰は小さく苦笑した。 「じゃあな」 「あ、ああ、じゃあ」 強引に黒子の手を引いて行く青峰に、クラスメイトの戸惑う声が聞こえる。会話に乱入する形となったのだから当たり前といえば当たり前かもしれないが、黒子自身は安堵の方が優っていた。 彼のあられもない本心を聴いてしまうのは後ろめたくもあり、同時に疲れを感じるのもまた事実だった。 『何だよ、話してんのわかんねえのかよ。何様だっつの』 吐き捨てるようなそれについ振り返れば、あからさまにぎくっとしたような表情を見せる男のパラドックス。いかなタイミングであろうとまさか本当に心の声が聴こえているなんて誰も思ってやしないのだろうけれど。 「!あの、青峰くん、」 「いいんだよ、いいから行くぞ」 青峰には聴こえていない、けれど、自分のせいで青峰が悪く思われるのは耐えられない。 黒子のそんな気持ちを知ってか知らずか青峰は構わず足を進める。 「…青峰くん、ごめんなさい」 「いいよ別に、何言ってたのか知らねえけど俺には聞こえねえんだし」 「僕が嫌なんです。青峰くんをあんな風に思われるの」 「何言ったんだよあいつ」 そう言って微苦笑さえ浮かべてみせる青峰は、本心から気にしていないのだろう。 彼には唯一、パラドックスが存在しない。 だからこそ黒子には青峰がすべてで、青峰以外を信じたことはない。青峰の言葉はすべて本当だ。相反する言葉と本心ばかりを聴かされてきた黒子にとってこれほど安らかでいられる場所は青峰のとなり以外にはない。青峰に会うまでは、なかったのだ。 「テツ?どうした、気持ち悪いか?」 人の本心に充てられて気分が悪くなる黒子を、出会って以来頻繁に目にしてきた青峰が突然黙り込んだ黒子を心配そうに覗き込む。 「いえ、青峰くんのとなりは、居心地がいいなあと…思ってただけです」 無用の心配をかけてしまったと申し訳なく思う黒子を余所に、覗き込む態勢のまま固まってしまった青峰を今度は黒子の方がどうかしたのかと首を傾げれば青峰の眉間に皺が寄った。 「…ツンデレかよ」 「なんですかツンデレって」 「あ、ちげえ、デレデレだわデレデレ」 「誰が誰にデレデレしてますか」 「俺がテツに!」 「は…、な、なに言ってるんですか…っ、馬鹿ですかアホ峰くん」 「馬鹿なのか阿呆なのかはっきりしろよ」 言いながら髪の毛をぐしゃぐしゃとかき混ぜられる。けれど不思議と不快ではないその感触に甘んじていると、しかしその手はすぐに離れていった。 名残惜しく追った視線の先で、黒子の好きな笑顔が浮かぶ。 「どっか寄ってくか?」 「帰ります」 「うん実は言うと思ってた」 「なら聞かないでください」 「拗ねんなよ」 「…、拗ねてません」 名残惜しい思いが視線から漏れていたのだろうか。再び頭を荒っぽく撫でられて、気恥ずかしい思いからつい振り払ってしまう。青峰には黒子のそんな心情など通ずるわけもないのにと気まずく振り仰いだ先で、けれど青峰はなんの蟠りもなく笑っていた。 「なんだその顔、怒ったとでも思ったのかよ?バッカだなあ、テツ」 「…だって、君には僕の心なんてわからないでしょう」 恥ずかしかっただけ、戸惑っただけで本当は嬉しかった。 けれどそれを伝えられるような言葉を術を黒子は持たない。 それでどうして、青峰には伝わっているだなんて盲信ができるだろう。 「わかんねえけど、テツの性格は知ってる」 それだけ知ってりゃ十分だ、とあっけらかんと笑う青峰は、下を向いてばかりいた黒子の目には眩しくて、ひっそりと目を細めた。 「頑固で意地っ張りで負けず嫌いで、お人好しで、傷付きやすいテツを俺は知ってるよ」 「…」 『すきです。君が、すきです』 口数の少ない自分のパラドックスが、彼に触れられない代わり、己の主を愛おしげに抱きしめながら拙い告白を繰り返す。 青峰には見えない、聞こえない。 「…、ありがとうございます」 自分の心の告白を聞きながら、ただそれだけを口ずさむと 『いつか、君に届く言葉で伝えたい』 寄り添うパラドックスがふわりと微笑んだような気がした。 Fin ───── 次こそちゃんと人の心の問題を解決していく黒子っちが書きたいです。 なんて設定の無駄遣い/(^o^)\ 原作のタイトルがすきなのでそのまま使っちゃいました |