blue いつものように屋上で、いつものように部活をサボって、いつものように、鬱積した気持ちを眺める空色に吐き出していた。 高く遠いそれはいやに綺麗で、俺は無意識に瞼を降ろした。 けれどさつきのやつがいつもとは違い泣きながら俺のところへ走ってきたものだから、さすがに何事かと身体を起こした。 ところ、までは、覚えている。 なんでそんなに冷静でいられるの、だとかなんとか甲高い声で喚くさつきの言葉。 誰が、冷静だって? 言い返すことも驚くことも、走り出すことさえできない俺の、どこが。 (テツくん、目が…っ、) (色、なくなっ、ちゃ…っ、…) いつになく取り乱し泣きじゃくるさつきの、要領を得ない言葉を繋いでみれば如何な俺であろうとひとつの結論に辿り着くのは容易かった。 テツの目が色を失くした。 (テツの、目に、俺は映るのか?) 色を失くしたテツの視界に、俺は映るのだろうかと。 俺だけじゃない、赤司は、黄瀬は、緑間は、紫原は。 テツが色を失ったのは、俺たちへの拒絶の現れだ。赤を、青を、黄を緑を紫をテツは拒んで、視界から排除した。否が応にも俺たちを連想させる色をすべて。 「っ、どうしよう、ねえ、大ちゃん…っ!」 「…どうしようもねえだろ」 「な、に…それ…?心配じゃないの…?!」 ボロボロと涙を零すさつきの目には、俺はいま大層な人非人に映っていることだろう。 どうしよう、だって? どうしようもないじゃないか だって、テツは俺を求めていない テツは俺を全身で拒んでいる それは言葉より雄弁に。 「…俺に何ができるって?」 「できるできないの話じゃないでしょ!しなきゃならないの…!」 俺を糾弾する声すら他人事のようだった。 今こんなところで足掻いたってテツの目は治らないしなにをしてなにを願ったところで俺には治せない。俺たちのせいであるからこそ俺たちにはできないことだ。 頭の中はいっそクリアなほどで、やるべきことははっきりしていた。けれど。 「俺には関係ねえよ、もう」 関係ない、正しくは関係することができない。テツが、望まないから。 バタバタと騒々しい足音が遠ざかっていく。 俺自身の動揺をまるっきり写し取ったかのようなさつきの姿が見えなくなり、ひとりになってやっと次第を咀嚼し呑み込んで、心にぽっかりと空いた空虚な穴に気付かされた。テツが一度俺の前から姿を消したときと同じ、もしくはそれ以上の寂寥にどうしようもなく、泣きたくなった。遣る瀬ない思いが嗚咽となって溢れ出る。胸を締め付けるのは狂おしく激しく、ただただ痛いばかりの後悔と、贖罪。 (テツ…っ、テツ、テツ俺は…) (お前を) (壊したかったわけじゃない…!) だってこんなにも、俺はお前を愛してるのに。 「っぅ…っ、く…」 俺の視界から空を奪う涙は、なによりも熱く俺の目を灼いた。 (このままなにも、見えなくなっちまえばいい) Kiss in Darkness ───── 青峰編でした 青峰は黒子っちのためにひとりで泣けばいいと思います |