kuroko | ナノ
 
目を瞑ったらキスをして
 





※誠凜vs霧崎戦のネタバレ含みます 







「ねえ」 

「!」 

試合終了後、かつてない昂揚と興奮に震える身体を持て余して足を運んだ外のバスケットコート。そこで一人ボールをついていると、唐突に襟首をぐんっと引っ張られてボールが手から離れる。それをかろうじて両腕で抱き込むと、背後の人物が笑みを漏らした。誰のせいだ、と少々の憤りを感じながら振り向けば、 

「よく試合の後に練習なんかするね。物好きな」 

試合中にも関わらず風船ガムを膨らませていた、先刻までの対戦相手が突っ立っていた。例によって例の如く、風船ガムを膨らませて。 

「…何すんですか」 

「ん?ああ、メンゴメンゴ」 

悪びれる様子もなくそう言って、一応は手を離す。しかし苛々は一向に収まらない。だいたい今日の試合のラフプレーの数々を許したわけではないのだ。木吉のあの体中の痣を見て、許せるはずがない。 

「何なんです、何か用でも?」 

「ピリピリしてんなあ」 

「当たり前でしょう?勝ったからって僕は、あなたたちを絶対許しません」 

指示されていただけだとしても、花宮の考えに同調してその指示に従っていたのならチーム全体の責任だ。あんなもの、チームワークじゃない。悪意を込めてそう吐き捨てても原は意に介した様子もなく少し考え込むように空を見つめたかと思うと不思議そうに視線を移す。 

「なあ、花宮の一発は別として他に何かしたっけ?」 

「!あれだけのことしといて…っ」 

「あー違う違う、オ・マ・エ・に・何か、したっけ?」 

したか、していないか、と言われればしていない。されていないと答えざるを得ない。確かに彼らは皆、花宮の一発以外、「黒子」に対してのラフプレーはなかったのだ、いっそ不気味なくらいに。 

「…それは、」 

「してないよなあ…」 

「…」 

「だって、徹底してたんだもんよ。オレらん中で」 

「…は?」 

それはつまり、黒子に乱暴するな、という徹底か。 
意味がわからない。 

「まあそんなことどうでもよくて、本題」

「?」 

「あのドライブの仕掛け教えてよ」 

「!!?はあ…?」 

何故この人はそれを黒子が教えると、敵に塩を送るような真似をすると思うのだろうか。まして、気に入らない相手に。

「いいじゃん、負けたんだし」 

「そういう問題じゃ…。あ、あのまばたきの解釈ってあなただったんですか」 

「そ。まあ間違ってたみたいだけど」 

言い終えるのと同時に限界まで膨らんでいたらしい風船ガムがパンッと破裂した。口の回りに纏わり付くそれを特に気にした風もなく指で剥がしにかかるのを見ていて、何だか得体の知れない脱力感に襲われる。試合中あれだけあくどいことをしておいて何故こうもユルいのだろう。 

「…まばたきだって思ってればいいじゃないですか」 

「それじゃあ封じれなかったんだから、違うんでしょ?」 

「…」 

違う、と言ってしまえばそれだけでひとつヒントを与えてしまうようで口を噤んだ。 

「うーん、じゃあ試してみる?」 

「え?」 

何を、と思って逸らしていた視線を目の前の人物に戻すのと同時に閉じた瞼。その一瞬のブラックアウトの隙に唇にやわらかなものが触れ、しかしその正体はすぐに知れた。 
まばたきなんて、人が何かアクションを起こすには短すぎるのだ。一度のまばたきの間に目の前から消えるなんて不可能だと、彼は理解したのではなかったのか。 



今、僕はどうして彼にキスされた? 



「――――……っ…」 

「んーやっぱ無理だったね。まばたきの間にキスしてもばれないかなーって思ったんだけど。」 

キスしてる間に目開いちゃった、と。 
まるで悪戯がばれた子供みたいにベ、と舌を出して、反省という言葉すら知らないような顔で肩を竦める。 

「な…、に、す」 

現状を理解できない黒子を前に原はたった今黒子に重ねた唇を嘗め、黒子の視線を引くとにやっと唇を歪めた。 

「教えてやろっか」 

「?」 

「あんたには何もしなかった理由」 

「!」 

その言葉にハッと正気を取り戻した黒子を面白くなさそうに眺め、再び顔を近付けられてあからさまに警戒の色を濃くする黒子には気分を害した様子もなく原は黒子の耳元で囁いた。 

「あんたが可愛いからだよ」 

「!何言っ…て、」 

不覚にも赤くなってしまった頬に、再び唇を押し当てられ反射的に身体が縮こまる。するとその反応に原がくっと喉を鳴らした。 

「ま、今はいいかな。意識させただけ」 

そんな意味のわからないことを言って、あっさりと身体を離すとひらひら手を振りながら去って行った。 
結局訳もわからない内に二度もキスされて、何がしたかったのか最後までわからず仕舞い。 

「何だったんですか…っ!」 

嫌いだ、大嫌いだ、皆にあれだけのラフプレーを乱発した彼らを、許せる日なんてくるはずない。 

―――それなのに、いつまでも耳に残って消えない男の囁きと初めて感じた他人の唇の感触がじわじわと頬を熱くする。 


(意識なんて、してません…!) 


そう思うこと自体彼の思う壷だなんて気付きもしないで、思考はもう支配されてしまった。 



目を瞑ったからって 

キスしないで! 





―――――― 
どマイナー上等であります。原→黒のちのち原黒になるといい。それにしても12巻に触発されすぎ
そういえば黒子っちへのラフプレーの描写なかったなあと思ったら黒子っちがかわいくて乱暴できなかったんだという結論に達しました。 
霧崎っこたちはみんな黒子っちらぶになればいいと思うよ。