紳士協定 ※氷→黒←紫 (黒子は出てきません) 黒子テツヤ、16歳、誠凜高校一年、A型、1月30日生まれの水瓶座、大我の相棒 氷室辰也が知り得る彼についての情報といえばこんなもの。そしてそれすら殆どは彼と中学時代のチームメイトだった紫原敦から得たものだ。 (まあ、関連薄いんだからこんなものか) 最初は、何に対しても関心を示さない敦が妙に懐いているようだったから気になっただけ。そして実際会ってみて、大我の相棒であることを知った。嫉妬とかじゃない。兄弟同然だった大我に全てを預けられる、頼れる相手ができたのは素直に嬉しかった。 ただ、何故この子だったんだろう、と不思議に思っただけで。 敦のトクベツであった彼と、大我のトクベツになった彼がイコールで結ばれた時、オレの中に彼に対する不確かな感情が芽生えたのは揺るぎない事実。 この子は、オレにとっても特別になるんじゃないかって。 そんなことを思ってしまったのだ、柄でもなく。 (オレも大概馬鹿だよな) 実益がないことは嫌いだ。 でも、この気持ちは紛れもなく無益なものに他ならない。 ――自分がこれほど馬鹿だとは思いもよらなかった。 「黒ちんがどうかした?」 「ああ…いや、どういう子なのかなと思って」 敦が休憩に入ったのを見計らって、不自然であることなど百も承知で真正面から聞いてみた。回りくどいことも嫌いだ。最終的に得るものが同じなら何故遠回りをする必要があるのか、氷室にはきっと一生理解できないに違いない。 肩で息をしている状態の敦も「黒子」という名前にはぴくりと反応を示した。 普段なら休憩中に会話を交わすことなどないからか、不思議そうな表情でこちらを見つめてくる瞳にはいつもの殺気じみたものはなく、彼の何がこうも敦を動かすのか興味は深まるばかりだった。 「どういう子って言ってもなあ…」 「仲良かったんだろ?」 「今でも良いよ」 間髪入れずに返された声の少しムキになった様子に苦笑いが洩れる。 どうやら過去形はいけなかったらしい。 「ごめんごめん、仲良いんだろ?」 「うん、でも改めて聞かれても困るっていうか…。一番はやっぱ、影薄い子?黒ちん気にしてるからあんまり言いたくないけど」 気にしなくていいのに、という小さな呟きは今この場には居ない彼へと向けられた言葉だろう。わずかに滲んだ淋しそうな色を感じ取って、ふと思った。 「…なんだ、敦、黒子くんのこと好きなんだ」 「好きだよ?」 当たり前じゃん、という言葉と共に向けられた無垢な瞳。バスケに人生を捧げる人を目の前にてらいもなくバスケを嫌いだと宣ってみせる彼が言う言葉だからこそそれは真実味を帯びる。 「どういう風に?」 「どういう風もこういう風もないけどね、誰にも渡したくないくらいには好きだよ」 それは、究極じゃないだろうか。 恋心の。 果たしてバスケットボールをいじりながらするりと口にした敦がそれをそれとして自覚しているのかはわからないけれど、敦が言う「好き」は氷室が黒子に対して抱いている感情にひどく似ていたから。 「そっか」 「急になに?黒ちんと何かあったの」 「まさか、ないよ。あれから会ってもいないのに」 「…会いたいんだ?」 ふっ、と。 核心をつかれた気がした。 「!…―変なとこで鋭いな、敦は」 「そう?室ちんは意外とわかりやすいよね」 「それは心外だな」 「なにゆってんの」 「敦よりわかりやすいなんて自覚はなかったんだけど」 「……あと見た目通りに性格悪い。」 「失礼な」 「黒ちんは渡さないよ?室ちんでも」 にやり、と笑みを浮かべたいつもの子供っぽさが掻き消えたその顔にはもはや疲れなんて微塵も残ってはおらず、流石だなと変なところで感心する。 それは、やっぱり核心をつかれた故の動揺でもあったのだと気付いたのは額が汗を伝った瞬間。 「――敦に負ける気はしないね」 動揺を悟られぬように負けじと浮かべたニヒルな笑みは、敦より様になっているはずだろう。 おわり ――――― 静かに火花散らしてる感じがすごくすきです。出せてるかわかんないけどすごくすきです。 |