kuroko | ナノ
 
囚われの姫
 


※赤→黒の強姦まがい 




『テツヤ、君が僕から離れられると思う?』 

全中三連覇後の、忌まわしい記憶。 

黄瀬は黒子が姿を消したと言ったけれど、真実は少し違う。 
黒子が誰にも気付かれず姿を眩ますなんてことは、最初から無理だった。 

―――全中が終わった直後、最終決定だった進路希望用紙を赤司に見られたのが黒子を縛る因縁のはじまり。 

「どこ?誠凜って」 

「…去年、新設された…」 

見られてしまった以上、赤司をごまかすことなんて不可能だとわかっていた。 
だから無駄な抵抗はやめて、許しをもらおうと思ったのだ。赤司は黒子がどんな学校へ進学しようが興味などないとわかってはいたけれど、それでも、黒子にとって唯一絶対的存在であった彼に認めてもらいたかった。恩を仇で返すようなことだけはやめようと。 

それこそが過ちなのだと気付きもせず。 

「僕は、今の理念には着いていけないんです。だから…」 

「僕たちの誰とも違うところに行くって?」 

「…はい」 

青峰は桐皇学園、黄瀬は海常高校、緑間は秀徳高校、紫原は陽泉高校、赤司は、洛山高校。キセキの世代の面々それぞれが違う高校へと進学することは既に決まっていて、唯一まだ進学先が決まっていない黒子がそのどことも違う学校を選んで受験することは容易かった。 
そして、黒子がその5校のどこかに進学するのだと信じて疑わない彼らを受け流すことも同様に。 

赤司がわざわざ青峰や黄瀬たちに言うことはないと思ったけれど、隠すこともしないだろうと念のため口止めをしようと口を開き、それは叶わないまま黒子の視界は暗転した。 





「―…っ」 

目を開けて真っ先に視界を埋めたのは薄汚れた無機質な天井。 

「起きた?テツヤ、君ね、いくらシックスマンだからってやっぱりもうちょっと鍛えたらどう?」 

いつまで経っても起きないから死んだかと思ったよ、と、何でもないような口調で告げられた内容に別段おかしな所はない。 

しかし、ここは何処だろうかと辺りを見渡そうとして身体を起こした際に感じた腕の違和感に目を向けた瞬間、反射的に身体に震えが走る。 
黒子の腕を拘束するネクタイはきっと、赤司のものだ。 

「何…っの、真似ですか…!」 

「…わからないかな、逃がさないよ?」 

「!?はっ…?赤司くん、ふざけないでください、はやく解いて…っ」 

とにかく状況把握が先決だとさっと周囲に目を走らせれば、何のことはない、普段から見慣れた教室だった。その窓際最後列、黒子の席に悠々と腰掛けて赤司はいつも通りの食えない笑みを浮かべている。 
拘束された黒子を眺めながら。 

「赤司くん…?」 

「僕が冗句でこんなことをすると思うの、テツヤ」 

「思いません、だから柄でもないことしてないで早く解いてください」 

「わからない子だね君も。状況がわからない?」 

がたん、と椅子を引いただけのごく聞き慣れた音に自分でもよくわからないほど、本能的な恐怖を感じた。 

「っ…」 

「そんなに怯えることないだろう」 

黒子の瞳に恐怖の色が射したのを見て取ったのか、赤司はくっと喉の奥で低く笑い、黒子の前にしゃがみ込んで視線の高さを合わせる。その見慣れているはずの彼の顔が、誰か知らない人のものに見えた。 

「テツヤ、君が一言『洛山に来る』って言えばすぐ解いてあげるし、何もしない。」 

「!―…」 

「でも、君がどうしても言わないつもりなら…、今ここで僕のものにする」 

どちらにしろ、結局自分から離れることは許さないと、彼はそう言っているのだ。 

何故彼らが自分に執着するのか、黒子には結局三年間考え続けた末にもその答えはわからなかった。それは、赤司だけの話ではなく。 

「僕のものにする、って…一体、君は何を考えて…」 

「どうする?言うか、言わないか。」 

「言えるはずないでしょう…っ!」 

最早黒子の言葉など聞いていない赤司に拒否の意を示した瞬間、板張りの床に引き倒されて荒っぽい手つきで制服を剥がれた。規定通りに第一ボタンまできっちりと留めたシャツは赤司の手によりいとも簡単に無残な布きれと化し、引き抜かれたベルトは赤司のネクタイの上から更に黒子の腕を縛る。 

「!やっ…」 

「馬鹿だね、テツヤ。たった一言言ってしまえば、苦しい思いも痛い思いもしなくて済んだのに。」 

「っあ…、ぃや…っ!やめて…っあか、」 

赤司は、今の行動には似つかわしくない、どこか整然とした笑みを浮かべて黒子を凌辱した。 


* 


「はっ…、ぁっ」 

「テツヤ、君が僕から離れられると思う?」 

「!っ、や…あ、んっ」 


朦朧とした意識の中で呟かれた言葉は、黒子の中に昏い影を落としたのだった。 


* 


「…ろこ、くろこ?」 

「!はい、え…あ、火神くん」 

「何だよ、聞いてなかったのか?」 

「すみません…何ですか?」 

すっかり意識を飛ばしてしまっていた。短気な火神はそれでも繰り返してくれる。 

「練習試合だよ、なんでも向こうが申し込んできたらしいぜ。」 

「どこがです?」 

呆れ交じりに口を開いた火神を見て、何故か唐突に嫌な予感が背筋を凍らせた。 
聞いては駄目だと自分の中の危機管理能力が警鐘を鳴らしたのも既に遅く、 

「洛山高校」 

「―――…」 

ああ、こういうことだったのか、と諦めにも似た感慨が湧く。 

逃げられるはずがなかった。 

いつまでも消えなかった彼の感触。 

あの後、何のアクションもなかった赤司をもっと怪しむべきだった。たった一度抱いたくらいで彼が黒子を自分のものにしただなんて思うはずがなかったのだ。 
彼の性質を熟知していたにも関わらず、何の苦もなく誠凛高校へと入学できたことに何の安堵を感じていたのかと自らの浅慮を呪う。躍らされていただけだったというのに。黒子が赤司の元へ戻るまでの間くらいは自由にしてやろうという、たったそれだけの猶予。 

「っ――…」 

「黒子?」 

泣きたくなった。 

しゃがみ込んでしまった黒子に、火神の心配そうな声が掛けられる。彼と一緒にプレイできるのももうあとどのくらいだろう。 

「っ…かがみ、くん」 

「あ?どうした?」 

「勝てますか、彼に」 

彼、と言った黒子を不思議そうに見つめる火神。しかし、すぐに彼は自信に満ちた笑みを浮かべた。 

「誰だろうが勝つに決まってんだろ。」 

「そう…ですか、そうですね…」 

その練習試合が、きっと最後になる。 

きっと今の自分達の実力では、ボールに触れることすら叶わない。 

でもせめて、たとえ最後になっても、火神と、皆とバスケができれば。 

(僕はもう、それで十分です…) 


赤司の、人を食ったような笑みが思考の隅にちらついた。 


Fin



"12.1.13加筆修正 
―――――――― 
書いた当初は赤司登場前で口調捏造だったので直しました。