kuroko | ナノ
 
セクハラの定義
 


※「馬鹿みたいに」番外 
※ほんのり青黄的表現ありの青→黒←黄 





「あれ、青峰っちだけスか?」 

「悪ぃか。黄瀬のくせにうるせえよ」 

黄瀬が部室の扉を開けた時には既に着替え終えていた青峰は、いつも着ている奇態なキャラクターがプリントされた練習用のTシャツとハーフパンツという格好だ。 

だが、いつも遅刻ギリギリの青峰以外には誰もいない。 

入った瞬間こそ、もしかしたらもう既に他のチームメイトたちは練習を始めているのかと思ったが、焦る様子もない青峰を見るとどうやらそういう訳ではないらしい。 

「他の皆はどうしたんスか?珍しいスね、青峰っちが一番最初なんて」 

「だからてめえはいちいち一言多いんだよ」 

そう言いながらも 
「赤司たちなら外」 
と答えてくれるあたり、青峰も人がいい。 
口の悪さはご愛敬、というほど生易しいものでもないが。 

「でも、何で外なんスか?今日も普通に中練スよね?」 

制服の釦を外しながら問う。 
全国大会2連覇を果たした、実質全国一の実力と選手層を誇るバスケ部は、当然のように学校内でも特別視されており、体育館は優先的にバスケ部が使用できることになっている。 
そのためほぼ毎日バスケ部は体育館で活動している。その上、一週間に3度はバスケ部の独占状態だ。 

まあ、同じ空間で練習していても他の部活とのレベルの差は歴然としているし、それを見て他の連中は気後れするらしい。 

黄瀬からしてみれば、その程度で気後れするくらいならやめてしまえと思う。 

自分達が一生懸命やっているなら他人など関係ない。気後れする必要が何処にあるのだ。と、爽やかな笑顔の下で毒づいている。 

「知るかよ、んなこと。勝手に始めとけだと。」 

ロッカーに挟まれる形で置かれているベンチに腰を降ろした青峰はしかし、明らかに練習を始める様子はない。 

「…で、練習しないんスか?」 

「ああ?何でてめえと二人で仲良く練習しなきゃなんねんだよ。テツが来たらやるよ」 

「はあ?!何スかそれ!」 

「んだよ何か文句あんのか。」 

ある。大いにある。 
黒子と青峰が二人で「仲良く」練習し始めたら黄瀬は必然的に緑間とすることになる。 

もちろんそれも黄瀬にとって楽しいことではないのだが、そんなことは二の次三の次、 

青峰と黒子を二人にしたら――実際二人きりではないのだが――青峰は練習に託けて黒子にセクハラ紛いのことをしかねない。 

「文句あんのかじゃないスよ!だって青峰っち黒子っちにセクハラするじゃないスか!!」 

シャツの前もズボンの前も開けっ放しという開放感に溢れすぎた格好のまま、ベンチに乗り上げて胡座をかいて座っている青峰に詰め寄る。 

「んだとてめっ、あんなんちょっと遊んでるだけじゃねえかよ!!」 

「どこがっスか!!?ストレッチにかこつけてあんな…っ」 

そこで顔を真っ赤にしてしまうから、青峰の思う壷、玩具にされてしまうのだ。
わかっていても、モテる割に彼女など一度も作ったことがない黄瀬はそういうことに免疫がなく破廉恥なことを口にできない。 

「はんっ純情だねえ黄瀬くん?」 

「なっ…!だいたい青峰っちがああゆうこと普通に出来る方がおかしいんじゃないスか!!」 

ストレッチにかこつけて、黒子っちをわざと痛がらせて…あんな、声を……… 
汗を滴らせながら真っ赤な顔で喘ぐ黒子の姿がフラッシュバックしてかあっと頬に血が上るのがわかった。 

「っ…!」 

「おーおー顔真っ赤にしちゃって、なあに想像してんだか。」 

わざとらしく肩を竦めてみせ、なにを思って黄瀬が赤面しているか承知しながらそれをわざわざ口に出そうとする青峰はやっぱり人がよくなどない。 

「喘ぎ声聞かせてもらっただけだろ。あとはちょっーと脚撫でたり、耳舐めたり、アソコ…」 

「わーーーーーーーーー!!!!!!!!!それがセクハラ以外の何なんスかあ!!!!!!!!????」 

勢い涙まで浮かんでしまったが、これ以上聞いていられない。 

バスケをしていて何故脚を触るのか、耳を舐めるのか。 

「うっせーなあ、セクハラってのはなあ…こうゆうのを言うんだよ!!!」 

言いながら、黄瀬に胸倉を掴まれる形になっていた青峰は立場を逆転するべく黄瀬の肩を手加減なしに押した。 
自然、立ち膝の体制で踏ん張れるはずもなく、黄瀬は背後のロッカーに背中を強かに打ち付ける。 

「ったぁ!?ぁにするん…?!!?「セクハラ」って、はああ!?」 

痛がる間もなく何故か青峰は黄瀬の開けっ放しだったシャツの内側に手を突っ込み、まさぐってくる。 

「ちょっ…!?何考えてんスか!??うわっ!!」 

「セクハラってのはこうゆうのを言うんだよ!!とっととイきやがれ!!」 

がっ、と全くもって色気皆無な勢いで股間を掴まれ、扱かれる。 

「やめ…!!」 

「俺だっててめえのイチモツなんざ触りたかねえんだよ!!」 

勝手にも程がある。 
あまりにもな言い種に、 

「だったら離してくれればいいじゃないスか!!!」 

そう正論で返せば、 

「うっせえよ!!!いいからとっととイきやがれ!!!」 

またもや理不尽すぎる言葉が飛んできて。 
そして、 


ガチャ 



二人にとって、今最も聞きたくなかった音と、――――声が響いた。 

「…何してるんです……………二人共…………」 

黄瀬の服装は乱れに乱れて、青峰は黄瀬のズボンの中に手を突っ込んで、どう言い訳してもこの状況が正当化されることはない。 
今にも逃げ出したい現実を前に、それだけは明白。 

「何を、しているんですか、と、聞いてるんですけれど…」 

場にそぐわない、黒子の冷静すぎていっそ突き放したような声が耳に痛かった。 




"12.1.13加筆修正