kuroko | ナノ
 
 

そして今度こそ、内股に掛かった全く以って見たくもない己の吐き出した白濁で汚れた場所も彼自身の吐き出したモノでベタついた性器も綺麗さっぱり洗い流し、また一度達したために先程より覚束ない足腰になってしまった黒子を姫抱きで風呂場からリビングのソファに運んだ。 
生々しい情事の名残が色濃く漂う寝室になど行けるはずもない。 

「服持ってくるからちょっと待ってて。多分もう乾いてると思う」 

慌ただしく自分も服を纏い、昨日黒子が着ていた制服や下着を全て乾燥機から取り出す。 

「はい、ごめんね制服しわくちゃで…ズボンはさすがに洗ってないんスけど…アイロン掛ける?」 

「いえ、今日はこれで大丈夫です、ありがとうございました。」 

手渡した衣服を素早く身につけ、見る間に漂っていた淫靡な雰囲気は払拭されいつもの彼のストイックさが戻る。 

「…そこであからさまに残念そうな顔するのやめてもらえます。」 

「え。俺あからさまっスか?」 

「あからさまじゃないと思ってたんですか。」 

つい数分前までの羞恥と快楽に歪んだ顔が幻だったかのように表情には一寸たりとも隙がない。 
毒舌も健在だ。 

「早く行きますよ。もう遅刻なんですから」 

既に部屋の時計は9時を回っている。 
黒子にしてみれば信じられない失態なのだろう。 

「歩ける?おぶってこうか?」 

そう本気で問い掛けると、商売道具である顔面に遠慮ない拳が飛んできた。いくら黒子が細いとはいえ日頃の練習は自分達と変わらない量をこなしている彼の本気の拳をまともに顔面に受けたらただでは済まない。かろうじて避けると鋭い舌打ちが聞こえた。 

「…馬鹿にしてるんですか」 

「ええ!?何でっスか!?だって足腰立ちそうにない…っ!?!???」 

次はソファに座った黒子の膝が正面に立った黄瀬の股間に直撃する。 

「ええ、君のココが元気すぎるおかげで。…不能にしてあげましょうか」 

目が据わっている。 
やはり足腰が立たないらしい。 
風呂場の一回でキレたのかもしれない。 

「ーーーっ…」 

たった今大きなダメージを受けた部分を庇いながらうずくまり、黒子の冷たい双眸を見上げると不遜な態度で 

「…責任、とってくださいね。」 

そう言い下された。 


「…結局こうなるんですか………。」 

「しょうがないっスよ、まともに歩けないんスから。他に方法ないし…」 

結局、学校までは黒子を背負って行くしかなく、歩けない黒子は散々っぱら黄瀬を罵り、渋々、不愉快極まりないといった表情で黄瀬の背中に背負われた。 

そして黒子と自分の二人分の鞄を持ちマンションを出た所で、人影が行く手を塞いだ。 

「…誰?何で涼太が、そんなことしてるの?」 

耳に届いた声はどこか狂気が滲み、それなのに何故か穏やかささえ感じられる。しかし、黄瀬を「涼太」などと馴れ馴れしく呼ぶ者はいないし、今黄瀬にそんな文句を言われる筋合いのある恋人と呼べる相手は背中の彼しか居ない。 
会ったこともなく、姿も見せない彼女を除けば。 

「はっ…?あんた、まさか昨日からずっと…」 

「もちろん、だって涼太が出てくれないんだもの。…それ、誰?」 

可愛らしい笑顔はどこか空々しい。けれどまるで、本当に黄瀬が自分の彼氏だと信じているような、自分にはそれを聞く当然の権利があるものと信じているような、そんな態度。それに、背筋が寒くなる。 
「何なんだよ…あんた誰だよ、何でそんなことすんの?」 

「誰って、梨南だよ?何でって、涼太が好きだから。」 

さも当たり前のことのように語る目の前の高遠梨南なる黄瀬のストーカーの正体である彼女の表情は至って真剣だ。 

「…あんたの気持ちには答えられない。俺にはちゃんと恋人が…」 

「可哀相な涼太、騙されてるんだわ。そいつでしょう…」 

黄瀬が恋人と口にした瞬間、にこやかだった表情は途端に色を変え、黄瀬の背中に背負われている黒子を黄瀬越しにきつく睨めつけた。 
その視線に、黒子の身体がびくんと跳ねるのを背中越しに感じて、黒子の背中に回した手で強張った身体をさする。 

「男のくせに涼太をたぶらかさないで!!わかってるのよ、昨日だって…!!」 
その言葉につい反応してしまう。部屋に隠しカメラでも設置していない限り黄瀬と黒子がナニをしていたかなど、彼女にわかるはずもないのに。 
そして、一介の女子高生である彼女が隠しカメラなどつけられるはずもない。 
けれど、もしかすると、という疑念は拭えなかった。 

「何でそんな奴なの!?何で私を選んでくれないの!??何で…っ私のことあんなふうに振ったくせに!」 
先程までとは一転、取り乱した様子で詰め寄ってくると突然黒子を黄瀬の背中から引きずり落とし、頬を張った。 
状況がよく理解できていない黒子は目を白黒させて叩かれた頬を押さえている。 

「なっ…!?何す…っ!!」 

「こいつが居るから涼太は私に振り向いてくれないんでしょう!?涼太と今すぐ別れて!!」 

「はっ…?何言って…?!黒子っち、大丈夫?!」 

「は、い…」 

「っ、…何なんだよ!!俺が何した!!?」 

まだ呆然としている黒子を腕の中に囲って彼女から庇うように遠ざけると、黄瀬の黒子を守るような行動が琴線に触れたのか手を振り上げたが、素人の平手を喰らうほど鈍い神経ではなく、振り上げられた手を掴んだ。 

「っ…あんな、酷いこと言っておいて…!」 

「?ていうか、まず会ったことなんてないだろ…?!」 

「!っ私のこと覚えてもいないのね!?」 

これだけ言うのだから黄瀬に告白してきたことは間違いないだろうが、そんなことを一々覚えていられない。それに、断る時黄瀬自身に酷いことを言っている自覚はないのだ。 
――ただ、興味がないだけなのだから。

「ああ覚えてないよ。…もうやめてくれ…」 

手紙が来たり、メールや電話が来るだけならまだ我慢もできた。放っておけばいいだけなのだから。 
だが黒子に被害があった今、もうそういう訳にもいかない。黒子を殴ったのだけはどうやっても許せない。 

「涼太が悪いのよ?わかったでしょう?私のものになって」 

懇願した黄瀬に、嫌に優しい声音で諭すようにそんなことを言って、俯いた黄瀬の頬に手を添えようとする。 
しかし、伸ばされたその手は黄瀬に触れることなく払われた。 

「!?」 

「黄瀬くんに触らないで下さい。」 

微かに赤くなってしまった頬。 
しかしそんなことは気にも留めず、意志の強そうな澄んだ光を湛えた双眸で今だ笑顔の彼女を見据え、今度は反対に黄瀬を庇うようにして彼女との間に割って入る。すると彼女の瞳は再び狂気を孕み、払われた手を握り締めて彼女にとっては黄瀬との間を邪魔する存在の黒子を眼光鋭く睨んだ。 

「何なのよ…邪魔しないで。」 

「邪魔なのはあなたです。迷惑しているのがわからないんですか?黄瀬くんのことが好きならもう少し相手のことを考えたらどうです?」 

「何であんたにそんなこと言われなきゃ…!」 

「僕が黄瀬くんの恋人だからです。」 

きっぱりと言い切ると、彼女は怒りとも哀しみともつかない表情で黒子と黄瀬を交互に見、泣きそうに顔を歪めた。 

「っ…っ、私は…っただ好きで…黄瀬くんが好きなのに、私には冷たくて…っなのにあなたには…優しくて…っ、笑っててっ」 

「…」 

黒子はひっぱたかれたというのに泣き崩れた彼女に近寄っていくと、震える背中をさすって無言で慰めた。 
その姿はただの小さな女の子で、彼女はただ恋心に振り回されただけだったのだろう。その要因は、黄瀬の対応。 


やがて泣き止んだ彼女は、黒子にも黄瀬にも謝罪を繰り返して去って行った。 

「何だったんスかね、案外あっさり…」

「結局、自分のせいだったんですよ。言ったでしょう、『いつか刺されても知りませんからね』って。それを無視して酷いことばっかりしてたからバチが当たったんです。これに懲りたら少しは女の子に優しくすることですね。」 

彼にとっては恋敵であったはずの彼女を慰めた黒子は、彼女よりも寧ろ黄瀬が悪いのだといつかと同じ台詞を繰り返し、今だにふらふらとした足どりで歩いて行ってしまう。 

確かに、彼女ばかりが悪いとは言えなかった。 
あの少女に常軌を逸した行動をさせてしまったのは黄瀬だ。きっと、黒子の言う通り黄瀬がもう少し言葉を選んでいれば彼女はあんな行動に走ることはなかっただろうと自分の行いを初めて反省した。しかし、黒子という本当に「優しく」するべき存在が居る以上、必要以上に優しく、というのも無理な話だ。期待を持たせるつもりもないし、ましてや告白を受け入れる可能性も皆無なのだから。 

けれど、またこんなことがあっても困るし何より黒子に心配を掛けたくない。その為には結局最低限「優しい対応」をしなければならないのか、と多少の面倒臭さを感じながらも、黒子のためになら何でもできると少し先を歩く彼を振り仰ぎ線の細い背中を見て我知らず顔が緩んだ。 

「置いて行きますよ。」 

そんなことを言いながらも少し先で振り返って待っていてくれる愛しい恋人に最高の笑顔で笑いかけ、彼と肩を並べるべく追い掛けた。