kuroko | ナノ
 
 

「馬鹿っ!!」 

バチンッ 

―――と、自分の頬で肉を張る渇いた音がした。空々しい思いでその音を聞いている自分は、人間として何処か欠陥があるのではないかと何度も疑ったが、その度に彼を愛しく思う気持ちがあることでその猜疑心は否定される。 

だからと言って、この目の前の理不尽な生き物に何らかの感情を抱くということでは全然全くないのだけれど。 

「――馬鹿?どうして?俺はただ、君のことを知らないって言っただけで…」 

「っ…最低!!何でそんな酷いこと言えるの?!」 

涙目涙声でそんなことを言う少女に正直苛立ちを隠しきれない。 

そんなことをされても、少しも心は動かない。 

――…寧ろ、苛立ちは募るばかりだ。 

「だからさ、何でそんなこと言われなきゃいけないの?だって話したこともないでしょ?知らないよ、話したこともない子なんて…」 

「っ黄瀬くんがそんなひとだなんて思わなかった…!!」 

ついに涙を落として走り去る少女の後ろ姿を見届け、もう既に名前を思い出せなくなっていることに黄瀬自身最低だと思わないこともないではないが、告白を断ったことに対して責められる筋合いはなかったと溜息をついた。 

話したこともない人の顔、ましてや名前など知るはずもない。日夜普通の人よりは遥かに多くの人と顔を合わせ、更にはファンの女の子たちに囲まれる日常を過ごしている身としては一々記憶していたら出来があまりよろしくない黄瀬の頭はパンクしてしまう。 
飲み込みが早いのとは別だ。 

つらつらともう罵倒の言葉を忘れてそんな事を考えていると、 

叩かれ損。 

そんな言葉が脳裏に浮かび、しかしそれもすぐに忘れてしまった。 



「黄瀬くんが悪いです」 

先程の出来事を、馴染みのファストフード店の二人掛けの席に向かい合わせに座った黒子に雑談程度に語ると、思いがけず低い声が返ってきた。 

「へ…?!何で!?」 

思わず素っ頓狂な声で返すと、不愉快そうに眉を顰めた黒子にその大きな瞳を向けられ急いで口を塞ぐ。 

「…何でも何も、黄瀬くんの事を好きなのに、その君にそんなことを言われたら傷付くに決まってます。黄瀬くんみたいな人を好きになってくれたんですから、君は感謝こそすれそんな酷い事を言うなんて間違ってます。」 

酷い言われようだ。 
いつになく饒舌な黒子がその熱弁を振るうのが黄瀬を罵るためだと言うのは心中複雑であるが、こんなにも声を聞けることは普段あまりないので仮令罵倒されていようが黄瀬は幸せだった。 

「…?気持ち悪いですね、ニヤニヤしないで下さい。あなた仮にも顔で商売してるんでしょう。」 

やっぱり酷い言われようだが、別に黒子に言われる分には腹は立たない。 

まず、黄瀬にこんなことを言うのは黒子か他のキセキの面々だけなのだが、 
顔だけ誉めそやして、更に黄瀬のその容姿を利用しようとさえする奴らよりよっぽど良い。 

そんなことより、 

「でもさ、顔も名前も知らないのに付き合える訳ないっスよ。」 

「そんなことは言っていません。付き合う付き合わないの問題ではなく、断るにももう少し言い方というものがあると言ってるんです。」 

その大きな瞳では、睨むというより見詰めるという表現の方が相応しいだろう、厳しい目付きで黄瀬を見る。 
さすがに茶化すことはできず、 

「でも…何とも思わないんスもん。俺は黒子っちのことは『好きだなあ』って思うけど、他の人に同じ感情は湧かないんスよ。」 

そう大真面目に返せば 

「だから、別に好きだと言われて自分もその人を好きにならなければいけないわけじゃないですよ。…って、変なことを公共の場で言わないで下さい。」 

溜息交じりに言われ、ついでに牽制されてしまった。更には 

「そんなことばっかりして、いつか刺されても知りませんからね。」 

とまで言われる始末。 

そこまでされる程非道なことをしたとはどうしても思えない黄瀬は、その黒子の言葉を軽く捕らえていた。 

――最も、黒子とて本気だったわけではないだろうが、すぐに黄瀬はその言葉の重さを知ることになる。 



――数日後の朝、朝練を終えて黒子と共に教室へ向かう途中の下駄箱で、黄瀬は自分の靴箱の蓋を開けて眉を顰めた。 

「?」 

そんな黄瀬の手元を覗き込んだ黒子は 

「またラブレターですか?相変わらずモテますね、ろくでなしのくせに」 

と早朝から耳に痛い毒舌を披露してくれる。 

黒子は他の連中と違って黄瀬がモテることに僻んだりすることはないが――黄瀬としては少しくらい妬いてほしい――昨日の件を皮肉っているのだろう。 

だが、どうもラブレターにしては可愛らしさに欠ける。普通女の子のラブレターというのは、少しでも女の子らしさのアピールをしようとこれでもかというくらいの装飾が施されているものだ。 

それに較べ、この茶色い封筒は…どう考えても愛を綴った手紙を入れるべきものではないだろう。 

それに少し…いや大分、手紙にしては分厚すぎるのだ。 

そう思って黒子の目の前でそれを振ってみせるが、 
「…これ、ラブレターだと思う?」 

「知りません。」 

さも興味ありませんとばかりにあっさりと一蹴されてしまった。 

「や、ちょっ、待ってよーだってこれ…」 

「中見ればわかるでしょう。いちいち僕に聞かないで下さい。」 

黒子は心底不愉快、もしくは面倒臭そうに黄瀬を一瞥すると一人でさっさと歩みを進める。 

少しくらい気にしてはくれないだろうかと嘆息しながら封を開けた黄瀬はその場で絶句した。 

いつまで経っても動き出そうとする気配のない黄瀬を流石の黒子も訝しんだのか、戻ってくると、黄瀬が手にしたまま固まっている封筒をピッと奪うと、中身を確認して微かに眉を顰めた。 

こんなものを目の前にしても眉を顰めるだけというのはさすが黒子と言わざるを得ないが、今はそんな所に感心している場合ではない。 

「…何です、これ。」 

いつもと変わらないトーンで小さく呟いた黒子が手にしているのは、膨大な量の、写真。 

写っているのは全て、黄瀬涼太その人だった。 

ここ数日の間に撮られたのであろう写真の中には黒子が写り込んでしまっているものや、授業中、部活中、帰宅途中、さらには更衣中の写真まである。 

さすがにセキュリティの頑強な撮影現場の写真はないが、撮影現場であるビルから出て来る所はしっかりと撮られていた。 

「何…なんで?どうやって…」 

「!黄瀬くん、手紙入ってますよ。」 

「手紙…?」 

―黄瀬涼太様― 
あなたが好きです。 
顔も好き。声も好き。体も好き。目も鼻も口も手も、綺麗なあなたの全部が好き。私が涼太をこんなにも想っているのに、あんなふうに笑顔を向けてくれたのに、どうして私のことを好きになってくれないの。私たちは結ばれる運命なのに。運命に逆らうなんて間違ってると思わない?涼太。 
だからね、振り向かせてみせるから、顔も名前も知らないなんて言わせないから。 
――――りなより

異常な好意。運命なんてよく口に出来るものだといっそ感心する。 

名乗っているあたり、自分の行為がストーカー同然であるとは感じていない。 
ただ純粋に、黄瀬に振り向いてほしいという気持ち。好意を伝えたいだけなのかもしれない。 

――けれど、何をされても、こんなストーカー行為をされたら尚更、黄瀬が振り向くことなど有り得ない。何故それがわからないのだ。 

「ありえない…」 

「だから言ったでしょう。『いつか刺されても知りませんからね』」 

溜息交じりにいつかと同じ言葉を告げる彼は、呆れながらも心配してくれている。 

それに今はそんな場合ではないと思いつつも嬉々とした思いを抱かずにはいられない。 

「うん…そうスね、これからは気を付ける」 

「…大丈夫、なんですか。ストーカーなんて」 

「多分ね。ストーカーだって初めてじゃないし、そんなに心配してくれなくても大丈夫っスよ。こういう仕事してたらしょうがないしね」 

能天気に笑ってみせると、眉間に皺を寄せ、眉尻を下げていた黒子は少し表情を和らげた。 

「…そうですか。なら、いいんですけど。」 


黒子を巻き込むわけにはいかない。黒子にだけは、手を出されたら相手を殺しても足りない。 

心配をかけないようにするのは簡単だ。 
黄瀬が気にする素振りを見せなければいいのだから。 

けれど、黒子に直接被害があった場合はどうにもならない。 
ストーカーなどをするような輩は基本思い込みが激しく、今回も例に漏れずそうだろう。 

もし黄瀬が黒子に惚れていることを知ったら、 
黒子に何をするかわからない――… 

――そんなこと…絶対させない。 

黄瀬自身昏い感情を抱きながら、まだ立ち尽くしている黄瀬を心配そうに見つめている黒子に笑いかけ教室に足を向けた。 






「ストーカァー?黄瀬がぁ?物好きもいるもんだな。」 

部活も終わり、着替えながら部室で無駄話をしていた青峰は黄瀬のストーカーの話を聞き、そう宣った。 

「酷いっスねーこれでも人気あるんスから。」 

「けっ、てめえはそんな片手間にやってっから俺様に勝てねえんだよ。ストーカーなんかほっときゃ愛想つかしてなくなる」 

ストーカーされたこともないのに言ってくれる。 
だが青峰のその言葉に反論したのは黄瀬ではなく、黒子だった。 

「そんな簡単な話じゃないんですよ。電話とかメールとかも知られて…」 

「いいっスよ黒子っち。電話とかメールは電源切ってればいいだけだし、青峰っちの言う通り、すぐ無くなるっスよ」

どこから仕入れたのか、既に黄瀬の携帯番号もアドレスも知られていたらしく、あの手紙を受け取って以降いつでもどこでも引っ切りなしに携帯が鳴っている。非通知にされていては着信拒否もできず、ただ携帯の電源を落とすしか手はなかった。 

あれ以降も写真は送られてくるし、メールとは別に手紙も付されている。 

「そろそろ帰りましょうか。」 

黒子のその一言で、揃って部室を出る。

黄瀬は事務所に寄っていくと告げ、一人で帰路に着いた。 
本当は、今日はもう仕事も無く事務所に寄っていく用などない。 

「家まで知られてんじゃなあ…」 

最近では、家のポストにまで手紙や写真が投函されるようになった。時にはインターホンまで鳴らされ、黄瀬が出るまで鳴らしつづけるのだ。 

だんだん、エスカレートしている気がする。 

だがそれを黒子に知られるわけにはいかない。 

前までは一緒に帰るついで、黒子を家に引っ張り込むことも稀にあったのだが、最近ではそんなこともめっきりなくなってしまった。 

黄瀬が相手を恨めしく思うのはその点だけだった。他に思うところは、特にない。 
ストーカーというのは大体にして相手にずっと自分のことを考えていて欲しいという欲求から行為に走る。確かにその面では、ストーカー行為はこれ以上ないほど効果的だろうが、こと黄瀬に関してはそうでもない。 

いつでもどこでも黄瀬は黒子のことしか考えておらず、ストーカーになど何の感情も抱いてはいない。 

つまりは、黄瀬に何をしようが全て無駄。自分が黒子以外に関心することなど有り得ないのに。 

そうこう考えている内に自宅のマンションに着き、郵便受けを覗くと予想通りというか、今日も今日とて分厚い封筒が入っている。こう毎日では直接投函しているらしいので切手代はまだしも、現像代だって馬鹿にならないだろうに、と悠長なことを考える。 

「っ…やっぱり、」 

唐突にそんな声が聞こえ、すぐにその声の持ち主が誰なのかはわかったがあまりにも彼のことを考えすぎているためについに幻聴でも聞こえるようになったのかと疑った。 

しかし続いた言葉に、幻は消え去る。 

「気付かないとでも思ってましたか、黄瀬くん」 

少し怒気を含んだ声は、幻聴であるならわざわざ聞きたいものでもない。 

振り返り、彼の姿を確認する。 

「黒子っち…何で?」 

「毎日毎日仕事だって言われたらわかります。もう少し何かないんですか? 
――…君は、本当に馬鹿ですね。」 

「!…いや、だって、大したことないのに心配かけたくないし…」 

噛み合っていないことは承知で言い訳を並べる。 

「何処がですか。大したことない?もう、家も知られてるんでしょう。」 

「それは…でも、別に何かされたとかじゃない…」 

「されてなくても、そんないつでも監視されてるような生活がストレスにならないわけがないでしょう。」 

いくら黄瀬くんでも、と、小さな厭味も込めつつ黒子は睨んでくる。 
そして、それ以上反論できない黄瀬に大きく溜息をつき、 

「…しばらく、うちに来て下さい。」 

「え…!?いやいいっスよ!!そんな迷惑かけらんない…!」 

「迷惑とか言ってる場合じゃないです。いいから早く荷物纏めてきて下さい。」 

言いながら黄瀬の背中を押す。黒子の力で押されてもどうということはない、しかし逆らえないから困る。 

「あの…っほんと俺なら大丈夫っスから!気にしなくていいし…」 

「無理です」 

こうなってしまってはもう、黒子は梃子でも動かない。 
しかしだからといって黄瀬もこれだけは譲れないのだ。 

もし、黒子の家までばれてしまったらと考えるととても行けたものではない。 
「いやでもやっぱり…黒子っちの家にそんな迷惑…」 

「わかりました。そんなに気にするなら 
僕が黄瀬くんの家に行きます。」 

一瞬、黒子が何を言っているのか理解できなかった。だがその言葉が脳に届いた瞬間、とんでもないと全力で拒否していた。 

「っだ、駄目っスよ!!そんなの絶対ダメ!!!!」 

「じゃあ黄瀬くんがうちに来て下さい。」 

そんな二者択一はないだろう。どちらを選んでも結果黒子を巻き込んでしまうし、だからといって選ばないことは当の黒子が許してくれそうにない。 


それなら――― 


「――っ…わかった、黒子っちの家には、行けないから……」 

「じゃあ僕が黄瀬くんの家にお邪魔します。」 

それしかない。どうしても、黒子の家を知られるのだけは避けたい。 

これでストーカー行為がエスカレートしていることを黒子には否応なしに知られてしまうが、それはもうこの際話してしまった方が寧ろ余計な心配をかけなくて済むだろう。 

いつまでも隠しておけるものでもない。何より黒子が許してくれるはずもない。 

そう、腹を括って黒子を家に招いた。 

「お邪魔します」 

「ちょっと汚いっスけど、上がって。ゴメンね」 

「いえ、僕が突然押しかけたんですし…」 

恐縮したような態度でリビングのソファに腰を下ろしている姿は妙に小さく見え可愛かった。 

「はい、ゴメンこんなものしかなくて。」 

炭酸飲料を注いだコップを黒子の前に置く。 
露が落ちるのを見てから、黒子はそのコップを手にした。 

「ありがとうございます。」 

「…心配かけてごめん、でも、ほんとに平気っスから…」 

どうにか黒子を遠ざけようと口にしたことだったが、そんなことが物も言わずに伝わるはずもなく黒子は瞳に沈んだ色を覗かせて俯いた。 

「迷惑、でしたか。…すいません、」 

「違うっスよ!そうじゃなくて…っ」 

「でも、心配するに決まってます。…僕は何なんですか。いつもはあんなにうるさいくせに肝心な時には何も話さない。そんなんで、僕を好きだって言うんですか。」 

コップを握る手が震えていた。 
けれど、声には寧ろ怒りが色濃く見える。 

「…好きだよ。だから嫌なんスよ。俺のせいで黒子っちに迷惑かけるのが…」 

「!…そんなことですか…?」 

意を決して言い出したと言うのに、黒子は目を丸くしてそう言った。 

「そんなって…」 

「……迷惑…?ふざけないで下さい。そんなの今更気にすることですか?迷惑なんて今までどれだけ掛けられてきたと思ってるんです。」 

脱力したようにソファに背を預けて、呆れ返った顔で立ったままの黄瀬を見上げてくる。 

「………しばらくお邪魔します。たまにはいいでしょう、僕が黄瀬くんに迷惑掛けても。」 

先程の怒りに震えた声は何だったのか、しらっとした顔でそんなことを言ってのける黒子には、きっと一生勝てないのだろう。 

「迷惑じゃないっスけど、そういうのもいいかもね」 

少しだけ笑って黒子の隣に腰を下ろし、黒子の小さな頭に頬を寄せて自分より一回り小さな身体を抱きしめた。 
嫌がられたらどうしようと内心ビクビクしていたが、溜息をひとつついただけで許してくれた。 

「あ、家に連絡いれなくていいんスか?」 

「大丈夫です。黄瀬くんはどうせ大人しくうちに来るなんて言わないと思ってましたから、もしかしたら黄瀬くんの家にお世話になると言ってあります。さすがに何日も連絡しないわけにはいきませんけど、とりあえず今日は大丈夫です。」 

そこまで見越されていたのかと驚きつつも、黒子がそんなに自分のことを考えていてくれたのかと思うとつい頬が緩んだ。 

実際には、黒子が思っているほど黄瀬自身参っている訳ではない。 
黄瀬にとってはストレスを感じる程「彼女」に気持ちを傾けてはいないのだ。 
ひたすらどうでもいい。 

「黒子っち、今日何食べたい?俺作るよ」 

「何でもいいですけど…黄瀬くん料理できるんですか?」 

「うん、一応一通りは。」 

中学生男子にしては充分な腕前だという自負はある。 

「じゃあ…黄瀬くんの得意料理がいいです」 

黄瀬の腕の中に収まったまま、そんな可愛いことを言ってくれる。 
さすがにいきなり襲い掛かったりはしないが、心境的には似たようなものだった。 

「っわかった!じゃあちょっと待ってて。」 

名残惜しさを決死の思いで振り払って黒子を腕の中から解放し、最近使用頻度が減っていたキッチンに立つと、丁度ソファに座った黒子の白い項が見える。 
煩悩を刺激するその景色もなるべく視界から外し、久々に握った包丁に意識を集中させた。 


得意料理といっても所詮は冷蔵庫の余り物でパスタを作るくらいしか出来なかったのだが、味は悪くなかったので良しとした。黒子も、表情に変化はなかったけれどそれはいつものことであり、何はともあれ美味しいと言ってくれたのでよかったのだろう。 

夕食を終え、特に何をするでもなく10時を回ってしまった。 

「黒子っち、先風呂入っていいスよ。着替え用意しとくから」 

「はあ、すみません。」 

「気にしないで。俺も黒子っちの残り湯で楽し…」「お先に失礼します」 

冗談のつもりだったのだが、黒子に冷たい視線を投げられて黄瀬も今ようやくその事実の重大さを理解した。 

――やばい 

何て馬鹿なことを言ったんだ。自ら墓穴を掘ってどうする。もういっそその墓穴に埋まりたい。 
自分でも何がなんだかよくわからないことを考えている自覚はあったが、それより黒子の残り湯でどうやって平然と風呂に入れというのだ。 

こう意識していては黒子に変な目で見られてしまう。