kuroko | ナノ
 
未来を知らない僕たちは、
 


幸せそうな寝顔が、黄瀬の胸の裡にじわりと黒い沁みを滲ませる。 

それはいくら想っても届かないもどかしさと、苛立ち。 

所詮彼が黄瀬に大人しく抱かれる理由は、その根底に潜むものは、ただの罪悪感にすぎないのだ。過去、黄瀬の手を無情にも振り払ったことへの無意識下での罪意識。 

罪悪感、ですらないのかもしれない。黒子が抱いているのは黄瀬に対する憐憫だけかもしれないと、そんなことを、黒子の身体を抱きながらふと思うことがある。 
強烈な快楽に呑まれて我を失った黒子が、その脳裏に思い浮かべるのは誰なのか。それが黄瀬ではないことは明らかで、彼が黄瀬に求めているのはセックスだけだ。 
なら、黒子を抱かない黒子の想い人は? 


「くろこっちは、酷いっスよね…」 

「…何がですか」 

返ってくるはずのない返事。 
元々答えを求めていたわけではなかった独白に、たった今まで寝ていたとは思えない程はっきりした声音が続いた。 

「!…寝てなかったんスね。」 

「…黄瀬くんがずっと僕の顔を眺めてるからでしょう」 

何も面白いことなんてないと思いますけどね、と。 
先刻までの情事の名残で掠れた声が黄瀬の耳にいやに残る。 

「……くろこっちは、やっぱ酷いよ。」

「だから何がですか…」 

わからないのか。 

黄瀬の気持ちを知っていて、それでも尚黄瀬に身体を捧げる、その慈悲の裏に隠れた残酷さが。 

―――酷い人だね。くろこっち 

身体はいくらでもくれるのに、 
心なんか欠片もくれない。 
見せてもくれない。 

「ひどい…よ、くろこっち。」 

ぼやけた視界。 
無意識に伝う涙。 
上手く笑えなくて引き攣った頬。 

それを、また憐憫の瞳で見詰める黒子。


―――くろこっち、君は、オレに憐れみ以外は向けてくれないの? 
―――好きだなんて、言うことさえ許してくれないの? 

心さえくれるなら 

身体なんかいらないのに。 

愛を伝える術を、身体でしか与えてくれないなんて 

「酷いっスよ…でも 
―――愛してるんだ」 


「…駄目ですよ、不用意に、そんなこと言ったら」 



やっぱり君は、ただ静かにオレを見詰めて口づけた。 
それはまるで、これ以上何も言うなと言われているような。 




"12.2.16加筆修正