箱庭の猫 「テツーおーいテツー」 「…人を猫みたいに呼ばないでください」 見当たらない相棒の姿を探して彼がよく一人で読書に励んでいる中庭へ足を運ぶが、それでも見当たらず怒られるのを承知で呼び掛けてみると予想以上に近い場所から不機嫌な声が聞こえた。 何故読書をするのに図書室ではなく中庭なのかというと、ここには野良猫が足繁く通ってくるからだ。それを黒子は頑として言わないが周知の事実である、とは黒子は気付いていない。 「お、居た。」 「何か用ですか?」 「お前なあ…今日ミーティングだっつったろ。」 風に舞って乱れた髪を手櫛で整えてやりながら呆れ混じりに告げると、どうやらまるっきり忘れていたようでそうでしたっけ、と悪びれずに首を傾げた。 相変わらず我が道を行くというか、動じないというか。彼の図太さはキセキたちの比ではないと青峰は常々思う。 「すみません、忘れてました。」 頭に載ったままだった青峰の手をしれっと払いながら立ち上がり、制服についた雑草は気にも留めずそのままで歩きだした黒子にオレの手よりそっちを払え、と内心毒づくものの、結局青峰は先を歩む黒子の制服についた草を払ってやらずにはいられないのだ。 白いブレザーに緑色は目立って仕方ない。 「ちょっと待て」 「?」 「前向いてろ」 不思議そうに振り返った黒子を反転させ、背中、裾、袖、ズボンについた緑色を丁寧に払い落とす。 「…すみません」 申し訳ないというよりは恥ずかしさだろうか、いつにも増して小さな声でそう言って語尾には申し訳程度のお礼が付け加えられた。 しかしその可愛らしさについ笑みを漏らすと、先のお礼の分は差し引かれたらしい、キセキたち―特に青峰―に対して容赦のない黒子にしては軽い平手打ちを食らった。 「いて」 「痛くないでしょう、何のために脳みそ筋肉でできてるんですか」 「お前はいつもいつも失礼な奴だな。」 「無意識に失礼なことを言ったあげく言ったことにも気付いていないような人には言われたくありません。」 あのお礼は声の大きさにも比例していたらしくどうやら平手打ちの手加減一つで使い果たしたようで、遠慮ない毒舌の数々がすらすらと流れるように出てくる。 「ったくよー、テツじゃなかったら殴ってる…」 「野蛮な人は嫌いです」 「へーへーわかってますよ、ほら終わり」 綺麗に緑を払い終えたズボンの尻辺りをポンッと軽く叩いてやる。 たいして強く叩いたわけでもないその勢いで黒子は数歩前につんのめってしまい、冷たい色の瞳でじろりと睨まれた。 「……せくはら」 「はあっ?!」 「嘘です。さっさと行きますよ」 ――全く難解だ、この相棒は。 けれどそんな彼を自分は好きだし、あまつさえ楽しんでしまっているのだから始末に負えない。 こぼれ落ちる溜め息は、己が守るべき小さな存在を愛しく思うからこそで、 何より勝手気儘な猫のような彼を黒子だからというそれだけの理由で全て許してしまえる自分に呆れ半分、しかしそんな自分が嫌いなわけでもない。 振り回されるのも悪くない、なんて一体自分はいつからこんな甘い男になったのか。 そんなのは黒子と出会ったその瞬間からに決まっていて、黒子と居る限り、黒子が青峰の元に居続ける限りずっと。 (テツには敵わねえんだろうなあ…) 「置いて行きますよ、青峰くん」 「待てよ、テツ」 互いを確認するように名前を呼び合って、 離れていかないよう手を握りしめて、 言葉もなく笑いあった、 中学三年の夏。 まだ、何も知らなかったこの時のオレは信じていたのだ、この先、オレとテツが分かたれることなんて永遠にないと。 この時すでにテツがオレたちと戦う未来を選んでいたことも知らず、ただ無邪気に、単純に、当たり前のように。 Fin ――――― 青黒は悲恋(not片思い)と仄々担当なので両成分入れてしまいました。ero担当は黄黒と赤黒!とっても個人的な割り振り!! でもやっぱりハッピーエンド至上主義なので最後はくっついて幸せになればいいと思います^^おみくんがんばって |