知らなくてもいいこと 「黒子っち!………って、あれ?」 危なかった。 あと少し教室を出るのが遅れていたら見つかっていたかもしれない。黄瀬くんは鈍いくせにどうしてか僕を見つけだすのだけは上手いから。本当にわからない人だ。 「黄瀬くんっ」 「あ、ねえ黒子っち見なかった?」 「知らないよー!教室で見ることのが珍しいもん」 からからと笑う少女に悪気はない。 ただ黄瀬くんと話がしたくて、僕の話題なんてすぐにでも終わらせてしまいたいのだろう。 だからって、僕が傷付かないわけじゃない。意図的に姿を隠して教室のすぐそばに僕がいることさえ知らない少女を咎めることなんてできないけれど。 「……そういうこと言わないで。黒子っちいないなら用ないんだ、ごめんね」 「えっ、黄瀬く…」 引き留めようとした少女の腕をするりと避けて、隙のない笑顔のまま黄瀬くんは教室を出る。彼にしてはあまりにも冷たい反応に、僕は逃げるのも忘れていた。 「…」 「!あ、黒子っち見つけた!」 教室を出た瞬間にすっと表情を消した黄瀬くんに呆然としていたら、ふと目が合って再び彼の表情にはいつもの豊かな感情が戻る。 「!…」 「もー黒子っち、待っててって言ったのに」 「…遅かったので」 嘘だった。一体どうやっているのか知らないけれど黄瀬くんはいつも授業終了のチャイムとほぼ同時に僕のクラスまでやって来る。だから僕は、授業終了と同時に教室を出る為に帰りの準備は昼休みと五限の休み時間に済ませておくのだ。 「そんなこと言ったってー…授業終わったらすぐ行ってるんスよ?」 知っている。というかむしろ本当に授業が終わってから来ているのかどうかの方が怪しいところだ。 「何度も言ってるじゃないですか、わざわざ迎えに来なくて結構です」 「なんで?だって一緒に行きたいっスもん」 「…別に、僕じゃなくてもいいでしょう?緑間くんとでも一緒に行ったらいいじゃないですか」 彼が僕にこだわる理由がない。 黄瀬くんが来る度女の子たちの鋭い視線を一身に浴びるのは僕だ。僕に被害はあれ黄瀬くんに得はないだろうに。 「えっ!?嫌っスよ!!」 「…教育係だからっていつも一緒にいなくていいんですよ」 部活でだけ。 彼が間違ってしまったときだけ。 彼が困っているときだけ。 必要以上に仲良くなる必要も理由もない。 なにも精神的に寄り添う必要はないのだ。 一緒にバスケをしていられればいいのに、 どうしてそれを許してくれないんだろう。 「……黒子っちが教育係でよかったよ?」 「?そういうことを言ってるんじゃ…」 「だって教育係だから、黒子っちは俺と居てくれる。ほんとなら青峰っちとたくさん練習しなきゃなんでしょ?青峰っちに文句言われちゃった、テツ独り占めすんなって」 そんなことを、さも嬉しそうに言うものだから。 僕は、それ以上黄瀬くんを遠ざける言葉を見つけられなかった。 どうしてこう、天才という人種は揃いも揃って僕なんかに執着するのか。 同じ天才同士で互いを高めあっていけばいいのに、どうして無理矢理その中に凡人以下みたいな僕を引きずり込むような真似をするのか。 わからない。皆わからない。 天才の考えなんて、それこそ凡人以下の僕にわかるわけがない。 「…馬鹿ばっかりですね、ほんと」 「ヒドッ!ばっかりって!?あれそれ俺も?!」 「黄瀬くん筆頭じゃないんですか」 「もしかして黒子っち俺のこと嫌い?!」 「………」 まさか。 嫌いになんてなれない。 嫌いになれないから、せめて好きにもなりたくなかったのに。 それさえ許してくれないのは誰だと思ってるんだ。 「なんか言ってよー!!」 この情けない大の男が可愛く思えるだなんて、きっと僕はどうかしてるんだろう。 おわり ―――――― 黄瀬に対する黒子っちの好きはまだ友達以上恋人未満。 黄瀬はいつでも黒子っちがすきです性的な意味で(やめれ |