飛べぬ胡蝶に意義あるものか ※黄瀬くんが病んでます ※黄黒というより黄→→→→黒 ※いろいろひどい くらい、くらい、そこは光の一筋すら届かない。 かつて光だったはずの彼は、僕から影さえも奪って昏く澱んだ瞳で僕を狂的に愛した。 眼も慣れないほどに暗い、黒く塗り潰されたような部屋でひとりただ彼だけの存在を感じ彼を待つしかできない苦痛と恐怖。拘束されていない手足はだからこそつかの間の自由を感じて苦しいばかりで、どうにか逃げ道はないかと推定六畳ほどの部屋を徘徊っても逃げ道どころか扉の継ぎ目さえ見つけることはできなかった。 そして今日もまた、長い夜は始まる。 「ただいま、黒子っち」 背に光を浴びておそらくにこやかに笑っているのだろう彼の姿を形だけで捕えて、反射のように身体が震えた。 「っ、お、かえ…り…なさ、ぃ…」 「いい子にしてた?」 「はい…」 「本当?じゃあ確かめようね」 「っ…、」 黄瀬のシャツを一枚しか纏っていない黒子の腕を優しく持ち上げて、袖を捲る。両手の確認をした後、床に投げ出された足へ視線を移した彼の動作がぴたりと止まった。 「あー、もうあんまり歩き回っちゃダメじゃないスか黒子っち。また痣できちゃったスよ?」 「!ごめ、なさ…っ」 どうか気付かないでと願った黒子の懇願も虚しく黄瀬は右足の生白い肌にかすかに浮いた青痣を冷たい指先でなぞる。 「怒ってんじゃないっスよ、ただね、俺は黒子っちの肌に傷がつくのが嫌なんス。わかるよね?」 「はい…、ごめん、なさい…」 「…………黒子っちは、ちょうちょみたいっスね」 「…?」 そうすれば治るとでも思っているように尚も痣を撫で続ける黄瀬がぽつりと呟いた言葉に、柔らかな声音とは裏腹に不穏な気配を感じて黄瀬を見ると、にこりと微笑む。 「黒子っちは知ってる?…ちょうちょってね、籠に入れて飼うと、暴れてあちこちに羽根をぶつけてボロボロにしちゃうんだって」 その末に、疲れて死んでしまう。 彼は黒子を蝶々だという。綺麗な羽根を自ら痛め付けるような真似をする蝶々。けれどそれは、自由に羽ばたけるはずの蝶々が狭い籠の中に押し込められた故の抵抗であり、決して自虐行為などではないのだ。 むしろ自由を取り戻すための至極前向きな努力。 「…でもね、そういうときはちょうちょを三角紙に閉じ込めて、五日に一度だけ餌をやって飛ばせて、また三角紙に閉じ込めるの」 「!…っ、ぁ……や、いや、です…っ」 「黒子っちももうちょっと狭いところの方がいいんスかね。そしたら傷つかないかも」 「い、や…っ!おねが…っ、もうしません…!もう何もしません、だから…っ」 許して、と。縋るように泣き叫ぶ姿のなんて惨めなことだろう。 黄瀬は黒子を蝶々だという。 つまり、彼は黒子をそうして飼っているつもりなのだ。虫籠の中の蝶々のように、黒子をこの暗い籠の中で飼っている。 「うん?黒子っちが嫌ならしないよ、ごめんね、泣かないで」 がたがたと震えながら、それでもすべての元凶である黄瀬しか縋るものも頼るものもなくただ壊れた機械のようにお願い許してと繰り返す黒子を腕の中に囲って、ひどく優しく背を撫でる黄瀬の表情はまるで聖人君子の如きに慈悲深く穏やかなものだった。 ぜんぶぜんぶ、彼の仕業であるのを忘れてしまいそうになるほどに。 「…おいで」 甘ったるい声音で囁かれる甘美な誘惑。 そのあとに続く行為を拒むという選択は、黒子には与えられていない。 差し出された誘惑の手を恐る恐る取れば、彼はやっぱりひどく優しい表情で微笑んで引き寄せた黒子の口腔を深く蹂躙した。 それは眩暈がするほどにつらく苦しく、 逆らい難い快楽を齎す凌辱だった。 (こわい、こわいこわいこわいこわい) 飛べぬ胡蝶に意義など無い ただ、死んだように生きるしか。 Fin ―――――― あ、後味悪くてすみませ… ちょうちょの説を使いたかっただけです。 真偽は定かでないけどね!ヤンデレが書けてひとり満足!なんて私得! 胡蝶は語呂がよかったから使っただけで普通のちょうちょのことです |