小説あんすた | ナノ

2


忍くんの弁当を教室に届けて自分の教室に戻る。こういうことは良くあることで、忍くんのクラスメイトも苦笑いで代わりに受け取った。

忍くんが耐えきれなくて逃げる。

この行動がかわいくて、愛おしくて仕方ない。置いていかれて寂しい気もするけど、その後は必ず謝ってくれるから何倍も甘やかしてしまう。

「ちょっと。顔ゆるっゆるすぎてキモい。」

頬を机にくっつけてたら瀬名が覗き込んで毒を吐いた。

「もー、萌え萌えキュンって感じ。」

「うわぁ…」

ガチで引いてる。話しかけたのそっちのくせに話は聞いてくれないのかよ。頭を上げて頬杖をつく。ニヤニヤはしていないはず。

「またあの子いじめたでしょ。すごいスピードで擦れ違ったわ。」

「まぁ、今回のは不注意だった。俺のせい。」

「なにそれ。そんなこと続けてたら愛想尽かして離れてくよ。」

そんなまさか。うそだろ。

「…そういうこと言われるとすげー泣きそうになる。」

「はぁ?バカじゃないの。」

グサッと心臓にナイフが突き刺さった。

確かに瀬名の言ってることは一理ある。忍くんから別れ告げられたらこれこそ泣く。考えるだけで泣ける。

「離れてく、ねぇ…」

いつかはあるのだろうか。

「やめてよ。アンタが急に落ち込むから雨降ってきそうじゃない。」

窓の外を眺めると数分前の青空が今は雲で隠れてどんよりしている。



「…雨だ。」

ポツポツと静かに降ってきたが次第に地面に叩きつける音が聞こえるくらいの大雨になっていった。

朝テレビで見た天気予報は降水確率50%だった。傘は持ってきていない。忍くんはどうだろう。


「ちょっ、冬雅!」

いきなり大きな声を出した瀬名が窓に張り付いた。なに、と聞きながら腰を上げる。指を指した先に目をやった。

「なんであの子外にいるの?!」

「…忍くん?」

俺も驚いた。忍くんが走ってる。傘もささずに、辺りを見回していた。立ち止まっては頭を左右に動かし、腰を曲げて何かを探しているように見える。

「行ってくる。」

先生にはよろしく、と言って教室を飛び出した。

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