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最悪だ。
雑誌の撮影を短縮させて急いでドラマ現場行かないといけないのに。すぐ新幹線乗らないといけないのに。
「…人身事故?」
「えぇ。もう事故から3時間経ってるみたいだけど、まだ動かないみたい。」
「うわぁ、迷惑。」
俺らも既に2時間も待ってる。イライラしすぎて頭痛くなってきた。今日、天馬くんに会える日だったのに。
「撮影も外での予定だったから、薄暗い今じゃもう無理ね。」
マネージャーが監督に連絡をとっている。
「…はぁ。」
マスクを顎にかけ、ベンチに腰掛ける。天馬くん…絶対怒ってるだろうなぁ。恋人なのに、お互い忙しくて時間取れてなかったし。唯一の俺がライバル役をやる、このドラマ撮影の時くらいしか会えてないんじゃないか?
オフの日、今月も被ってない。
「…これは、別れの危機…」
うわぁあああ無理。嫌だー…
…でも、当然だよなぁ。恋人らしいこともあまりしてないし、デートも行ってない、セックスも片手でおさまる、くらい…まぁ付き合ってそんな長くないから、俺たちスローペースでーす…みたいな…
あ、やばい。自分で言ってて悲しくなってきた。
とりあえずLIMEで連絡しておこう。天馬くんとのトーク画面も久々開くわ…
俺すぐ寝るし、天馬くんも夏組公演の練習とかあるから声も聞けやしない。
「ハル。今日は近場のホテルに泊まって、朝また雑誌の撮影した後、新幹線乗ることになったわ。」
今日帰れないのかよ。
「仕方ないでしょ。いつ動くかわからないもんに頼ってたら予定も狂いまくり。社長に連絡入れとくから、当日予約でもいいホテル調べといてくれない?」
「はーい。」
「あー、それと。ドラマの撮影、とっくに終わらせたって。女優さんが怒ったみたい。」
「まじかぁ…」
マネージャーも忙しそう。顔が怖いよ。天馬くんに会えるのも明日。…会えなくなった、よりはマシか。どうせホテル代は経費で落としてくれるだろうし、良いところ探そー。
さすがの俺でも一気に疲れがきて、だるい。早く寝たい。
「…おい。」
頭上から声がした。
「何です、か…」
頭を上げて前にいる人を見る。
…あれ、待って待って。
「…天馬、くん?」
「…ん。」
帽子を被った天馬くんが俺の目の前にいる。
え、なんで?めっちゃ嬉しいけどなんで?
「どうしてここに…」
「LIME見たとき、近くにいた、から…」
フイッと視線を逸らした。
「撮影どうだった?」
「ハルが出てこないシーンだけ撮った。」
「そっかぁ…ごめんね、皆に迷惑かかっちゃった。」
「お、俺は別に…」
ベンチから腰を上げて、天馬くんを見つめる。俺より少し背の低い天馬くんが頬を赤くして視線を下に向けていた。
…かわいい。
帽子を勝手にとって、驚いてる天馬くんに手を伸ばす。
「ハルー?いいホテル見つかった?」
「…マネージャー。」
伸ばした手を引っ込め再び帽子を被せた。
「……。」
「えっ、天馬くん!今日は本当にごめんなさいね。明日はハルが今日の分を挽回させる演技するから!」
バシッと背中を叩かれる。怪力女。
「今も充分素晴らしい演技をしているので、俺も見習いたいです。」
ニッコリ、と効果音が付けれるくらい張り付いた笑みだった。
「いい子だわぁ…そんでハル、まさか話に夢中でホテル探してなかったってことないわよね?」
「ホテル?」
天馬くんが首を傾げる。
「うん。帰らずに近場のホテルに泊まろうってことになったんだ。見つけてないけど。」
「おいこら。もー…」
マネージャーに苦笑いされた。反省反省。
「…あ、俺がよく泊まるホテル、ここら辺ですよ。」
天馬くん…!!
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