2
「古市さん!」
自分の店の前に立っている古市さんに手を振る。
「…遅い。」
鼻がほんのり赤くなっていた。
「すみません。」
頬に手を滑らせると少し冷たい。古市さんがスン、と何かを嗅んでいる。
「コーヒー、飲んできたのか。」
「はい、古市さんは早く体暖めないと。」
二階に上がってすぐに暖房をつけた。
「…すみません、時間設定しておくの忘れてました。暖まるのに時間かかるかも。」
「ん、気にすんな。」
コートを脱いでハンガーにかける。慣れたもんだなぁ。まだ付き合って一年経ってないと思うけど、ちょくちょく会うようにしているから長く感じる。その間に俺はコーヒーを淹れた。
「今日の仕事も怪我無かったですか?」
ソファに座っている古市さんにコーヒーを手渡す。
「…悪いな。俺が怪我するわけねぇだろ。」
いつもなら隣に隙間なく座るけど、何となく距離を取って座ってしまった。うっわ、さっきの話意識すると何していいのかわかんねぇ。
「…ハル?」
「はい、古市さん。」
「……。」
「…夕食、作りますね。」
めっちゃ睨まれてる。そりゃあ、よそよそしいし。もう今日えっち出来ないかもしれない。嫌だなぁ。お互い忙しくて3週間はしていなかったのに…
「…風呂沸かす。」
「お願いします。」
優しい…古市さん好き…そんな古市さんに無理させてたと思うと…俺はなんて酷い奴なんだ。
もんもんと考えてる間に古市さんが帰ってきた。目が合って無意識に頬が緩んでしまう。
「っ、なんだ。」
「いえ、何でもないです。」
フイっと顔を逸らされてしまった。
…ご機嫌斜めですね。
「…うしっ。」
完成したハンバーグを皿に乗せる。
「チーズ乗せますか?」
「…あぁ。」
顔を向けてくれなかったけど料理を運ぶのを手伝ってくれた。
「…古市さん。」
ペットボトルの水をコップに注いでいる古市さんの背中から腰に手を回す。
「…零すところだったぞ。」
「ん。」
後頭部に顔を埋める。
「おい、ハル…」
「わかってます。食べましょう。」
「……。」
食事中も会えなかった間の出来事を沢山聞くことが出来た。演劇の話しか聞けなかったけど嬉しそうに話すから俺も嬉しかった。
「古市さん?」
風呂から上がって髪を乾かした後、先に入った古市さんの元へ行く。
寝てるのか。
ソファに横になって目を瞑っている。俺は屈んでまじまじと見てみた。見れば見るほど綺麗な顔してる。
眼鏡もテーブルの上に置いてある。前髪をできるだけ優しく掻き上げ、そのまま頭を撫でた。
…疲れてるんなら、仕方ないな。ベッドに運ぼう。そう思って、腰を上げた。
「っわぁ、ちょ!」
突然腕を掴まれ、バランスを崩す。咄嗟に古市さんの顔の横とソファの背もたれに手を置いて倒れ込むのを防いだ。
「…チッ。」
「起きてたんですか。」
てか、本当に危なかった。古市さん潰すとこだったよ。
「最初からバッチリな。」
首に腕を回され身動きがとれなくなってしまった。
「古市さん、寝ましょう?」
「……。」
ギロッと睨まれる。というかこの状況、誘ってるよね。絶対そうだ。うー、襲いたい。今すぐ食いたい。
何も言わない俺に痺れを切らした古市さんが、グッと近づいてキスをした。
「ふ、るいち、さ…」
俺の唇を噛むようなバードキスだ。やっばい、腰にくる。
「ハル…」
プツン、と切れてしまった。
「っむ、ハルっ…!」
古市さんの後頭部を手で固定させ、無理やり口を舌でこじ開けた。
「…我慢、効かないですよ。」
「上等だ。」
← | →
戻る