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『お前には関係ない。これ以上首突っ込むとお前とは終わりだ。』
喧嘩した。これまでにないってくらい大きな喧嘩。
「おーい。宮坂ー。」
「…何。」
「手ぇ止まってるよー。」
この会話、今日で何回目だ。隣のデスクで同僚のやつが何度も注意してきやがる。
「そんな俺ばっか見てないでさっきクソ上司から頼まれたモン早く片付けろ。」
椅子に座り直して意識を目の前の画面に向けた。同僚はニタニタした気持ち悪い表情のまま俺をガン見する。あらかた終わらせたらしい。
「こんな魂抜けた宮坂は見たことないからね。目に焼き付ける。」
「はぁ?」
もうこいつ疲れる。女に人気で仕事ができるウザイやつ、茅ヶ崎至。表向きは完璧優男。裏ではクソゲーマー。今まで話したこともなかったのに。
こんなやつが俺と関わるようになったのは、とある人が関係していたから。
「なに、恋人と喧嘩でもしたん?」
「……。」
こいつ気づいていやがる。ぶん殴りたい。残業で俺らしかいないのに声を小さくして聞く辺り、俺をおちょくっているしか思えない。
「なんで。」
カタカタと機械的な音が響く。
「まさかの質問返し。」
印刷ボタンをクリックし、コピー機へ足を進めた。ひたすら印刷された紙が現れるのを眺める。
「無視は豆腐メンタル傷つく。」
「うるさい。終わったなら早く帰れ。」
一言で表すと鬱陶しい。今俺は何も考えたくないんだ。話しかけんな。
「左京さんの様子がおかしいんだよね。」
資料をまとめていた手が止まった。それを見て茅ヶ崎の口角が上がる。うわ、まんまと乗せられた。
「だから?」
「ほらほら、宮坂が左京さんのことで宮坂がこう言うのがありえないだろ。」
「…そうか。」
自分のデスクに戻って帰る支度をする。
「なになに。ちょー気になる。」
「別れた。」
「は?」
「だから別れた。俺帰るわ。」
「待て待て待て!」
立ち上がった俺の腕を慌てて掴んで茅ヶ崎も続く。驚いていた。それもそうだろう。
「なに。」
「その話詳しく。」
「俺は疲れてんだよ。帰る。」
歩いている時にもしつこく迫られて更にストレスが溜まったように感じた。
今日も風呂入って死んだように寝るだけ。
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