小説えーすりー | ナノ

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まず、こいつとの接点がない。俺は鉄郎さんのステージ作りの手伝いをしているただのお手伝いさんだ。舞台にセッティングする時にしか顔を合わせない。「お疲れ様です」「あ、どうも」「…誰?」としか思わないだろう。顔を覚えているのかさえ不安だ。

それなのに、だ。



「…アンタが好き。」

いきなりそんな事言われても動揺を隠せないっていうか、疑問点が多すぎるというか。

とにかく、この子をどうにかしてほしい。

「あー、碓氷くんだっけ?」

「真澄って呼んで。」

「あ、うん。それで何かの罰ゲームだったら選ぶ相手間違ってると思うよ。」

とりあえず思い当たる節を言っていく。

「…罰ゲームなんかじゃない。俺の、本当の気持ち。」

いや、そう言われましても。ここ劇場のステージの裏ですけど。俺釘くわえて金槌持ってますけど。汗臭いんですけど。

ロマンチックムードの欠片もねぇ。

「お互いあんま話したことなかっただろ?だから、何も知らないっていうか…」

「一目惚れ。これから知っていけばいい。」

頑固。すごい頑固この子。察してくれ、少年…とても迷惑してるんだ。

あ、ほら、あれ…女性に何やら好意があるみたいだったじゃん?

「確か…監督、さんだっけ?その人のこと好きなんじゃないの?」

「あいつの名前出すな。」

どうして。

今の子ってわからない。二十代ど真ん中にいる俺もうオッサンなのかな。

「うーん…俺、監督さんじゃないよ?」

シュミレーション的なやつかな。面識ないやつに練習台になってくれれば知ってるやつよりかはいいって思ってるよね。

「知ってる。」

んんんん?何が言いたいの。

あぁ、いや、俺が理解出来ていないだけか。一旦整理がさせて。

まず、俺らは今のこの会話が初コミュニケーションだ。高校生だということは知ってる。若い。そんで、一目惚れしたと。

それより、目が合った時あったか…?

「たくさんアピールした。」

「……。」


待て。待て待て待て。もしかして、最近奇妙なことが起きてたのはこいつの仕業なのか?

トイレ行ってる間に使ってた小汚いタオルが新品のふわふわタオルに変わっていたり、物を運ぶ時に埃が舞ってくしゃみが止まらなくなった日には鞄の中に大量のポケットティッシュが入っていたり。その時はゾッとした。ティッシュはみ出てたし。

「タオル…ティッシュ…」

「うん。」

持ってた金槌を落としてしまった。いつからかわからないが口をあんぐりと開け、くわえてた釘も既に落ちていた。

思いの外大きな音で碓氷くんがビクッと震えた。俺が怒ったと勘違いしたのか瞳がゆらゆら不安そうに揺れている。

これはもう、あれだ。俺が心を鬼にするしかない。


「年上をからかうのは良くない。高校生の暇潰しだったら二度とやるな。」

碓氷くんは次第に顔を俯かせ、手が震えるほど握りしめていた。

これは泣いた、よな。鼻啜ってる音聞こえる。ズキズキと心臓が痛む。

多分この子は間違ったんだ。「俺、高校生の時男と付き合ってたんだー」なんて黒歴史では済まされない。これで目を覚ましてくれるなら。



「おれっ、本気で…すき、なのに…!」

目を何度も手の甲で擦って、えぐえぐと泣いている。普段は無愛想な顔して俺を横切るこいつが、こうして子どものように泣いていると少し焦る。

キツいこと言ってしまった罪悪感。傷ついたはずなのに逃げていない。泣いてるけど、俺に背を向けない。

この子、本当に俺のこと…


「あーあーもう、わかったわかった。」

俺の声に過剰に反応してしまっているこいつの頭に手を置いた。

「時間、くれ。」

「…え?」

「お前を好きになる時間を俺に下さい。」

乱暴に撫で回すと俺をチラッと見て、小さく頷いた。

嬉しそうに目を細める姿がなぜか少しだけ可愛いなって…思わなかったわけではないけどまだ認めない。





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つづく?

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