パソコンをシャットダウンして、閉じる。疲れた目の目頭辺りをぐりぐりと解した。俺は一旦審神者部屋に戻って書類整理をしていた。日も暮れて外は真っ暗だ。

「……。」

そして俺はとうとうため息をついてしまった。原因はやはり宗三。手入れ時間も過ぎて、そろそろ起きててもいい時間だ。枕元に『おきたら さにわのへやに』と置き手紙をしたのだが、一向に来る気配がない。文字を読むことは具現化してからすぐに教えた。読めない訳では無いだろう。

重い腰を上げて、審神者部屋を出た。

「宗三はどこにいる?」

「ずっと姿を見ておりませぬ!」

廊下でわさわさと白い毛並みを揺らしながら微笑んで答えてくれる小狐。

「ありがとうな。」

髪を思いっきり撫で回されるのが好きな小狐は、もちろん今も桜が飛び散っている。

宗三は手入れ部屋から出ていない可能性があるな。…もしかして、不備があったかもしれない。

「宗三、起きてるか?」

部屋の扉を開けて一番先に目に入ったのが、大きい団子のような塊だった。声をかけたらビクッと動いたから、布団にくるまっている宗三なのだろうと瞬時に理解した。とりあえず近くに座る。

「まだ痛いところはあるか?」

腹は減っていないか、起きれるか。聞いても無言を貫き通す。流石に俺もイラッとしてしまう。

「…はぁ。」

聞き出すのは明日でいいか。それか小夜とか長谷部とかに代わりに聞き出してもらおう。俺はもう疲れた。

イライラしている頭を掻いて立ち上がろうとした時、塊からぐすっと鼻を啜る音が聞こえた。驚いて中途半端な体制で聞き耳を立てると、ぐずぐず、ずびっ、と涙ぐんでいる様子だった。時折声を殺している。

…まさか泣いてる?

「…宗三?」

塊に手を置くと、震えているのがわかった。咄嗟に無理矢理布団を剥がすと母親の腹の中にいる胎児のように小さく丸まっていた。手に握っているのは俺が書いた置き手紙だ。強く握りしめたのか、ぐしゃぐしゃになっている。全身を震えながらひたすら涙を流す。

「おい、やっぱりどこか痛いんじゃ…」

「やだ…も、嫌…」

宗三は小さな声で嫌、と繰り返している。そこで俺は察することが出来た。
…そんなに嫌なのか。宗三の方が限界だったのか。

「…宗三、好きなように選べ。新しい本丸に行くか、政府に行くか。安心しろ、どちらにせよ俺は居ないし、他のやつらは政府に引き渡す予定で…」
「ッ嫌だ!」

宗三がまた嫌と言った。でも、さっきよりは違う。色々な意味が込められているような気がした。

話し合うために宗三を仰向けにさせ、身を乗り出す。宗三の顔の横に片手をつく。
子どものように泣き崩れていた。

「俺が嫌なんだろ?!ここに居たくないんだろ?!素直に喜べよ…!」

なんで、なんでお前が泣くんだ。泣きたいのはこっちだ。

「ちがっ、やだ…いかな…で…」

「…は、?」

今、こいつなんて言った?


「僕が、ぜんぶ悪い…生意気で、酷いことしか言えなくて、最低だから…」

片手で顔を覆っていて表情がわからない。

「今日だって、はやく周りに追いつきたくて、主に、頼られたくて…でも、迷惑しかかけてない…」

頭の中でぐるぐると必死に考える。一つ一つ重要なキーワードを繋げていく。

「もう、僕はいらない、ですよね…刀解、しますか…?折りますか…?」

正直言って、俺は混乱している。だって、宗三は…えぇ?

「…まず、俺を見ろ。」

手を退かすために自分の手を重ねても、いつものような拒否はしなかった。退けてみると不安そうな悲しそうな表情で俺を見た。

「刀解も、折ることもしない。それと…宗三はここが嫌いなわけではないんだな?」

「はい…」

「それじゃあ、ここに居ればいい。審神者は…」

宗三は俺の首に腕を回して引き寄せた。

「宗三?」

「…貴方がいい。主は、貴方しか認めません。」

なんだそれ。前言ったことと矛盾してるし、宗三がこんなに脆いなんて知らない。

俺が傷ついていたのに、今じゃ俺が悪いみたいになってる。

つまり、俺が未熟者で主として認めるけど呼ぶのは気が引けると。

だったら…

「…お前が堂々と俺のことを自慢してくれるようになるまで、頑張るわ。」

「…え?」

とりあえず、鍛刀して、みんなの練度を上げていくか。

今日からバリバリ働き始めようと決心した。




続く?
…………………………………
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