イチ

「おはよう。」

「おは…っぎゃー!やめろっ、髪ぐしゃぐしゃになる!」

玄関の扉を開けると外で晃輔が待っていた。毎日飽きずにおれの頭を撫でる。その時の晃輔の顔は誰もがハッキリとわかる優しくて甘い顔。こんな表情されたら、惚れない人はいない。

だからといって他にそんな顔してる晃輔は見たことがない。自惚れているのかもしれないけど、おれだけって思っていたい。

「なずな。」

「ん?なに…」

くしゃり、と晃輔がおれの前髪を掻き上げた。また背中丸まってるし、おれの髪の毛ボサボサにするし、もう我慢の限界だ。

だけど徐々に晃輔の顔が近づいてきて、おれは咄嗟に目を瞑った。


「…?」

待っても何もしてこないのが不思議で目を開けた。近い距離で笑っている晃輔に、ぶわっと身体が熱くなった。

「晃輔のばか!」

「ごめん、可愛かったからつい…」

不意におれの額にキスをした。おれが動揺して動けない間に手櫛で髪を整え手を握った。

「…かわいくないんら。」

ジトっと睨み上げてからしっかりと手を握り返した。


「あ、そういえば。今日も放課後レッスンあるんだよ。」

「今日も?」

面倒くさそうに溜息をついた。ここ最近毎日のようにレッスンだ。あまり放課後のレッスンをしない晃輔にとっては苦痛なんだろう。でも、なんで急に…

「転校生さんまじでスパルタ。前にサボったのまだ根に持ってる。」

…思い当たる節がある。晃輔がサボって、それでおれを…

思い出しかけた恥ずかしい記憶を必死で消す。ブンブンと頭を振ってる姿を見た晃輔が笑った。

「今日部活あるでしょ。怪我しないようにね。」

「わかった!晃輔も頑張れ!」

優しく笑いかけてくれるけど、確かに疲労の文字が見える。

…おれに何か出来ることないかな。

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