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「湊くんって笑うんだねー。」

「笑うとすごくカッコイイー!」

時すでに遅し。湊の左右には女の子がわらわらと集まってきた。俺が盛り上げてる時に俺を見て笑ったことがきっかけだった。二人きりの時だけに見せるような笑みを女の子たちはその姿に心を撃ち抜かれたらしい。

向かいの席をどうにかして死守してチラチラと見たけど、その度にチクリと胸が痛んだ。

自然に笑えてんじゃん。女の子の扱いもフツーに上手い。こうなればもう、モテるに決まってる。

「彼女いないんですかー?」

グイグイと距離を詰める女の子たち。ここぞとばかりにアピールしている。

「…好きな人、いるよ。」

アルコールの入った飲み物を飲んでいる時目が合っておかげで吹き出しそうになった。

「えぇーそんなぁ!」

「いや、でもぉ…」

待って待って。好きな人って、俺だよね?そりゃ付き合ってるもん。ラブラブだもん。君たちなんか湊の眼中にな、い…ってさり気なく腕絡めるな!顔を近づけるな!


「っもー!!湊は俺のっ!!」

テーブルに両手をついて勢いよく立ち上がる。ガタンと椅子が後ろに倒れた。

あ、れ…?

静まり返る周り、一斉に集まる視線。我に返ったときはサーっと顔の血の気が引いて背中に冷や汗が伝った。

やばい、やっちまった。

「あー…えっと、あ、はは…」

どうしよう、何か弁解、しないと…パニクって、何も


「帰る。」

湊が無表情に戻って席を立つ。何も言わずに俺の隣にやってきた。

「…え、わっ!」

手首を掴まれ、引きずられながら一緒に店を出た。後ろから女の子の残念そうな声やブーイングも聞こえたが、湊は聞こえないふりで大股で歩く。

た、助かった。嬉しいけど…怒ってる、よね。女の子と結構盛り上がってたのに、気まずい雰囲気出しちゃったし…

「一成。」

気がついたら寮の近くの明るい時間でも人気が少ない道まで来ていた。寮まで送ってくれてたのか。

1、2歩前にいる湊が立ち止まって振り返った。ちょうど日が沈みかかって辺りはオレンジ色、湊の顔が影に隠れて表情があまり見えない。

さっきまで優しそうな雰囲気で楽しそうに話してたのに、いつの間にかいつもみたいに戻ってる。

「ふぎゃっ!?」

手首を急に引っ張られ、その行動を予測してなかったせいで足元がふらついた。見事に胸元にダイブした。鼻が潰れそう。

「…疲れた。」

壊れ物を扱うみたいに優しく俺を包む。首筋に息がかかって擽ったい。

「お、お疲れ?」

「ん。喉痛い顔痛い。甘ったるい匂いで鼻もげそう。」

長い溜息をつく湊は相当疲れているようだ。めったに自分の疲れを表に出さない人なのに。慰めてあげようと抱きしめ返そうとした手が一瞬躊躇った。

湊の服に少しだけ染み付いた女の子が好みそうな香水の匂いがする。

「ありがとう、一成。助かった。」

…なんで湊が俺にお礼を言うんだろう。ありがとう、って言われることなんかしてない。

「ずるいことしちゃったなぁ。ただ女の子にヤキモチ妬いて我慢も出来なかっただけなのに。」

「そーなの。」

知りませんでしたという風に不思議そうな声を発す。きゃわたん…天然ちゃんなところも好き。湊は引くどころか更に身体を密着させる。優しい、俺の

「俺の一成。」

「っずるい!!」

ええい!この匂いなんか俺ので上書きしてやる!!




おわり


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