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湊さんが知らない女性とカフェで話しているところを見た。チク、って胸の奥が針に刺されたような感覚になった。



「…湊、さん…?」

スーパーに行く途中のおしゃれなカフェのガラス越しに笑いあっている男女。湊さんだ。

前に座って笑顔の女性は見たことがない。

カントクに買い出しを頼まれる数分前、湊さんは電話で『用事があるから済んだら会いに行くね。』と言っていた。オレは会いに来てくれると思っていなくて、嬉しい気持ちでいっぱいだった。でも。

用事って、これ、なのかな。

湊さんも、女性の人も笑っていて楽しそうな雰囲気。何話してるんだろう。その表情、女性にも見せるんだ

なんでだろう、胸が痛い。グルグルと変な黒いモヤが身体の奥で大きくなっていく。こんな感情知らない。心臓辺りを掴んでも鳴り止まない。


悔しいのはやっぱり、美人な女性とあの人がすごくお似合いだからで。

無理矢理目を逸らして走り出す。これ以上見てたら多分泣いてたと思う。

ダメだなぁ、オレ。湊さんに、ずっと甘えてたから




「買い出しありがとうー!重くなかった?」

買ってきたものを冷蔵庫に詰めていると後ろからカントクが声をかけてきた。

「い、いえ!重くなかったです!」

いろいろ考え込んだせいで言葉がどもってしまった。実際、重いとは思わなかった。ただ、心の方が何倍も重く感じた。

「あ、そうだ!今日湊さんが来るんだよね?何時に来るとか聞いてるー?」

無意識だった。


「来ないと思います。」

「…え?」

「…あ、」

カントクの声で我に返る。ズキンと頭も胸も痛くなってきた。

「咲也くんっ!?」

その場を飛び出して部屋に駆け込んだ。ドアを閉める音が自分でもびっくりするくらい大きかったが、シトロンさんはいない。安心したのと同時に自分に嫌気がさしてベッドで布団を頭から被った。

──最低だ


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