▽ 4-29
Another side
なまえちゃんを抱えたまま、落ちてくる鍾乳石をかわしつつ湖面すれすれを飛ぶ。
地底湖に落ちた鍾乳石が次々と水しぶきをあげ、ハングライダーに襲いかかる。
「・・・っクソ!このままじゃ落ちるぞ!出口はどこだ!」
寸のところでそれをかわしながら、必死に出口を探す。
「怪我をさせないでくれ。頼む」頭の中であの男の言葉が木霊する。
当たり前だ。
こんな所で彼女に傷ひとつつけてたまるものか。
あの場で俺になまえちゃんを託したあいつの気持ちを考えると、何がなんでもここから脱出しなければいけない。
彼女を抱える腕に自然と力が入る。
「あれか?!」
岩の向こうに光が瞬くのが見えた。
ハンググライダーを回転させ、すばやくワイヤー銃を撃つ。
ワイヤーが岩に突き刺さると同時に、羽の先を湖面につけたハンググライダーが波に飲み込まれる。
「行っけーーー!!!」
波の中から飛び出したハンググライダーはしぶきを飛ばしながら一気に上昇し光に向かって飛んだ。
*
土煙の中をハンググライダーで飛びながら、炎上する会場をみてふぅと息を吐く。
「あっぶねー、間一髪だったな」
その俺の声に反応したのか、腕の中のなまえちゃんがうっすらと目を開ける。
「・・・・・・快斗・・・くん・・・?」
「もう大丈夫だよ。すぐに下に降りるからもう少しだけじっとしててね」
この姿の俺を見ても驚くこともなく、快斗と呼んだ彼女はやっぱり知っていたんだろう。
そんなことを考えながら、湖のほとりに着地しなまえちゃんをそっと地面におろす。
「はい、もう大丈夫だよ」
「・・・ありがと・・・。快斗くん怪我は?!・・・れ、安室さんやコナン君は?!」
ここに居ない彼らのことが心配なんだろう。まだふらつく足で俺の腕を掴む彼女。
「俺は怪我してないから大丈夫だよ。でもごめん、ハンググライダーで一緒につれていけたのはなまえちゃんだけだったんだ」
「・・・っ・・・」
彼女の視線が燃えるレイクロック美術館へと向けられる。
「大丈夫だ。あの二人なら必ず無事に脱出するよ」
俺の言葉に返事はなかった。
彼女の耳に届いたのかも怪しい。
気休めでしかないこんなことしか言えない自分がもどかしい。
「なまえお姉さーん!!!」
「なまえさん!」
遠くから彼女を呼ぶ声が聞こえる。
恐らく俺と飛んでいるところを見た毛利探偵やあの子供達だろう。
ここで彼女と俺が一緒にいるのはまずい。
一人にはしたくないが・・・・・・。
「なまえちゃんごめん、俺行くね。すぐに皆来ると思うから。あいつらはぜってー大丈夫だから!!ちゃんと信じて待ってればいい!」
「快斗くん・・・!」
そう言い残してその場を去ろうとした瞬間、そっとマントの裾を掴まれる。
「・・・・・・ごめんね、わたし・・・。皆に迷惑かけた。快斗くんにも・・・っ・・・」
きっと彼女は自分が足でまといになったと悔いているんだろう。
そっと腰を下ろし、なまえちゃんに視線を合わせる。
子供達の声がだんだん近づいてきている。時間はあまりない。
「・・・俺はなまえちゃんか心配して追いかけてきてくれて嬉しかったよ。俺の正体をいつから知ってたのかわからないけど、それでもこうして俺を心配してくれるなまえちゃんだから助けたいって思ったんだ」
だから気にしなくていい、という気持ちを込めて彼女の頭をそっと撫でた。
「貴女がどうして私の正体を知っているかは、いつかあの場所で教えていただきたいですが・・・。今日はここまでです。また淡い月の光の下でお会いしましょう」
わざとらしくカッコをつけ、恭しく彼女に頭をさげる。
ポン!という煙幕の音と共に、俺はその場を立ち去った。
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