続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 4-28



Another side

なまえとコナン君の待つ通路に戻ると、コナン君がちょうど通信機を切り、ふぅと息をついていたところだった。


「犯人逮捕は無事に終わったかい?」
「・・・う、うん!新一兄ちゃんにさっきメールで教えてもらった通りに、中森警部に伝えたよ!」


僅かに言い淀んだ気がするのは今は気の所為という事にしておこう。それよりも大事なのはここからどうやって脱出するかだ。


「助けを呼んだ方がいいかな・・・」


コナン君のその意見を否定したのはキッドだった。


「やめといた方がいい。火事の影響で、鍾乳洞内部の気圧が急激に低下している。下手に救助を呼べば二次災害になりかねねえ」


たしかに彼の言う通りだ。

外部からの救助は難しいだろう。



「あとどれくらい持ちそうなの?」
「まだ崩れていないのが不思議なくらいだよ。天井に少しでも穴が空いたら一気に崩れるだろう」


俺の言葉に息を飲むコナン君とキッド。



その間にもつらら状に垂れ下がった鍾乳石が次々と落ちてくる。



ここから全員脱出するには・・・・・・。




「キッド。一人だけなら抱えて飛べるか?」
「・・・え?」
「なまえ一人だけなら抱えて外まで飛べるか?それだけ答えてくれ」


コナン君には無理をさせてしまうかもしれない。けれど気を失っているなまえを助けるには・・・・・・、全員でここを出るにはそれしか思いつかなかった。



「恐らく飛べる。だがこの落石を避けながら気圧の下がった空間を飛び続けられるかは定かじゃねぇ」
「それだけ聞ければ十分だ」


鍾乳洞の天井のあちこちから水が流れ込む。落下した鍾乳石がチューブ通路や建物に激突して大きく揺れる。



次の瞬間、鍾乳洞の天井から光が差し込んだと同時にガガガ・・・と轟音が響き、天井が崩れて地上の給水塔が落下した。

螺旋状のチューブ通路を次々と破壊しながら真っ逆さまに落ちていく。



足場が崩れる直前、俺はなまえを抱き上げてそのまま彼女をキッドの腕に押付けた。


「・・・っ!なんで・・・」
「怪我をさせないでくれ。頼む」


他の男に彼女を託したくなんかなかった。


この手で守れるならそうしたい。


けれどこの状況で彼女を抱えて飛べるのは、彼だけなのだ。


崩れかけている足場。キッドの元をそのまま離れ、急いでコナン君の元へと向かう。


「安室さん?!なまえさんは・・・?!」
「しっかり掴まってるんだ。離すなよ」


キッドがなまえを抱えたままハングライダーを広げ飛んだのを確認すると、そのまま瓦礫がコナン君に当たらないよう彼の頭を庇う。


瓦礫やひまわりと落ちていく中で、なんとか右手で破壊された通路から剥き出しになった鉄筋へと掴まる。



「・・・っ・・・!」


素手で剥き出しの鉄筋を掴んだせいで、手のひらが切れ痛みが走る。


離すわけにはいかない。

その痛みに耐え、なんとかコナン君を抱えたまま二階のチューブ通路に飛び移る。



「安室さん、腕大丈夫なの?!」

コナン君を地面におろすと、俺の手を見た彼がそう言った。


「大丈夫だよ、これくらい。それより早くここから出るんだ」
「けど一体どこから・・・っ!」


辺りは崩れた瓦礫だらけだ。


けれど彼の小さな体ならまだ脱出できる場所がある。



「<ひまわり>の脱出用のエレベーターだ。君の体の大きさならそこから外に出られるはずだ」
「・・・っ、でもそれじゃあ安室さんが・・・!」


この状況でも俺の事を案じる彼は、さすがというか無謀というか。無意識にふっと笑みが零れる。



「大丈夫だよ。僕はエレベーターホールの方から上に上がって外に出るから」
「けど今の衝撃でエレベーターホールの方がどうなってるかわからないよ!」
「大丈夫だから。君は自分の身を守ることを考えてくれ」


それでも食い下がる彼を何とか諌める。


そもそも彼をここに残してしまったのは、俺の弱さなのだ。


あの場でキッドが抱えて飛べたのは一人だけ。なまえかコナン君だけだ。


なまえは小柄といっても大人だ。<ひまわり>の脱出用エレベーターから外に出るのは難しかったはず。かといって俺が抱えてエレベーターホールを上がるのも難しい。


だからあの場で彼女をキッドに預けたんだ。



「・・・・・・って、そんなの言い訳だな」
「え?」


ぽつりと呟いた言葉はコナン君の耳には届かなかったようだ。


「すまない。僕の判断で君を危険な目に合わせてしまった」
「・・・っ、そんなの安室さんのせいじゃないよ!」


優しい名探偵は俺を責めることはない。


俺はあの場でなまえが助かる可能性が高い方に賭けたのだ。


聡い彼がそれに気付いていないはずもないだろう。


そんなことを考えている間にも、グラグラとチューブ通路が崩れていく。


「・・・絶対ここから脱出してね、安室さん!約束だよ!」


意を決したコナン君が展示室の方へと走り出す。



「あぁ、もちろんだ」


彼が展示室に入ると同時に巨大な石がその入口を塞ぐ。


俺も早くここを出なければ。


なまえがキッドと共にここを無事に脱出できたと信じて・・・。コナン君が無事に脱出用のエレベーターに行けると信じて・・・。


崩れかけのチューブ通路を駆け上がった。

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