続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 4-27



Another side

チューブ通路を流された俺達は、ブハッと水面から顔を出して通路の端に捕まった。


少し前で名探偵も同じように通路の端に掴まり肩で息をしていた。


なまえちゃんは・・・・・・?!


辺りを見回すと、少し離れた場所であの男に抱き抱えられてぐったりとした彼女がいた。



「なまえちゃん!」


そのまま彼女に駆け寄る。


「・・・・・・大丈夫だ。少し水を飲んで気絶しているだけだ。さっき水も吐かせたしそのうち意識も戻るだろう」


そう言いながら軽々と彼女を抱き抱えているこの男は、やっぱり只者ではないらしい。


「なぁ、名探偵。あの人一体何者なの?」
「オレに聞くな。お前こそなんでなまえさんと知り合いなんだよ」


少し離れた場所で名探偵に尋ねるも、それを聞かれると俺も返答に困る。


黒羽快斗としての繋がりをこいつに知られるのは厄介だ。



「犯人の計画に気付いていたのかい?」


安室と呼ばれた男がこちらを振り返りながら口を開いた。


「あぁ、通路のひまわりが導火線になるなら、チューブ通路は導水路になるはずだってな」
「てことは、犯人はチューブ通路にひまわりを植えようと言い出した人物ってことか・・・」


隣を歩いていた名探偵がはっと呟く。


「あぁ。やっと犯人が分かったようだな。・・・・・・さぁ、脱出するぞ」


オレはひまわり台からおりると、水の中をジャブジャブと進んでいく。


「どうやってここから出るつもりだ?」
「このままチューブ通路をのぼって、出口に近い最上階へ行く。エレベーターシャフトから上がれるかもしれねーからな」


名探偵とそんな話をしている間も、あの男はなまえちゃんの様子を気にかけていた。


あんな表情もするのか。


俺を睨んでいた時とも違う。あのホテルで向き合った時とも違う。ただ心配と慈しみの表情。



「・・・・・・ありゃ勝ち目ねーな」


ぽつりと零れた本音に返ってくる言葉はない。



床に置いてあったアタッシュケースから通信機を取り出すと、それを名探偵の方へと投げる。


「エレベーターホールの方を見てくるから、その間におめーは犯人をとっ捕まえといてくれ」
「・・・・・・ん、あぁ・・・。わかったけど」


そう言った名探偵の視線がちらりと安室という男に向けられる。


なるほど、あの変声機を使って推理してるところをあの男に見られるのはまずいってことか。


「あのお兄さんにも付いてきてくれって言うよ。さっさと済ませてくれよ」
「・・・・・・わりーな」
「また犯人に下手な小細工されちゃ面倒だから頼んだぜ」


そのまま着ていたブレザーを脱ぎ、純白のスーツとマントにモノクルの出で立ちになった俺は、いつものシルクハットをかぶる。


ひらひらと名探偵に手を振りながら、なまえちゃんと一緒にいる彼の元へと向かう。



「この先のエレベーターホールから脱出できないか見に行こうと思うんだけど、一緒に来てくんない?なまえちゃんはあの名探偵が見といてくれると思うし」
「・・・・・・あぁ、わかった」


キッド姿の俺を見ても眉ひとつ動かさない彼。


抱き抱えていた彼女をまるで壊れ物を扱うようにそっと床におろし、壁にもたれかけさせる。



随分と大事にしてるこった。



「・・・・・・なんも聞かねーんだな、あんた」

二人きりになった通路で先に口を開いたのは俺だった。


「逆に何を聞いて欲しいんだ?」

わざとらしく片方の眉だけをしかめ彼は笑う。


この男は知っているんだろう。


怪盗キッドの正体が黒羽快斗ということを。


あの様子だとなまえちゃんもそれを知っていたことになる。


一体いつバレたのか、気にならないわけじゃない。


「・・・・・・あんた一体何者?ただの喫茶店のバイトじゃないでしょ」


ただの喫茶店のバイトが拳銃なんて持っているはずがない。


「それを君に話す必要はないんじゃないかな?お互いに秘密のままの方がいいことだってある」


話す気はないってことか。


「・・・・・・なまえちゃんにとって危ない奴ではないんだよな?」

一番気にかかっていた質問。


彼女に危険が及ぶことがないのか。



「俺には絶対に曲げられない信念がある。その為ならなんだって犠牲にしてきたし、これからもそのつもりだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・けど、なまえのことだけは、その信念と同じくらい大切だと思っている。この答えで納得してもらえるかな?」


真っ直ぐに俺を見る青い瞳。


そこから伝わってくる意志の強さに、思わず視線をそらしてしまいそうになる。


愚問だったな。


彼の彼女を見る瞳からは、言葉より雄弁に想いが溢れていた。


「・・・・・・クソ、俺に勝ち目ねーじゃん」

ふっと笑えば、「当たり前だろ」と彼は笑った。






二人で瓦礫の山を飛び越えながら、エレベーターに近づく。


半開きになったエレベーターの昇降路を覗くと、切れたワイヤーがゆらゆらと揺れ、ところどころ崩れた壁から水が滴り落ちていた。


暗闇からギギギギ・・・と軋む音がする。



「洞窟内の気圧が下がっているな・・・」
「あぁ、消火に時間がかかったせいで思った以上に下がってる」


二人でその不気味な音に耳を傾ける。


「・・・・・・元々はどうやって脱出するつもりだったんだ?」


暫しの無言の後、先に口を開いたのは彼の方だった。


「鍾乳洞の奥に用意してた出口まで飛べりゃあすぐに出られるんだが、なまえちゃんやあのガキを連れてはさすがに飛べないからな。それにあんたもいるだろ」
「ハートフルな泥棒というのは間違いじゃないんだな」


うるせーよ!と思ったが、それが事実だ。


俺には誰かを残して自分だけ脱出することはできないんだ。

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