▽ 4-25
Another side
非常階段へと消えていく安室さんの背中を見ながら、エレベーターに飛び乗る。
「おい!安室はどうした?!」
「・・・えっと、ちょっと気になることがあるから先に行ってて欲しいって」
「はぁ?!あの馬鹿何やってんだ!・・・・・・っくそ、とりあえず行くぞ!」
上昇するエレベーターの中で、おっちゃんの苛立った声が響く。
どうしてなまえさんが館内に残っていたのか。蘭達はちゃんと避難できたんだろうか。
気になることが次から次へと増える。
その中でも<ひまわり>のことも気がかりだった。
「次郎吉おじさん、<ひまわり>は大丈夫なの?」
「展示室に危険が迫れば、自動で保護装置が働く仕組みになっておる」
後藤さんが次郎吉さんの言葉に続く。
「心配ない。プログラムは正常に作動していたよ。<ひまわり>に異常な振動や熱が加われば、防水ケースに入れられ、安全な保管庫に避難する。また、その装置は屋上にある貯水槽の水で自家発電されているから、決して止まることはないよ」
「でも二枚目と五枚目が・・・」
オレがそう言うと、近くにいた久美子さんが目線を合わせながら口を開く。
「安心していいわ、ボウヤ。<ひまわり>はすでに保管庫に移動しているはずよ」
いや、違う。あれは見間違えじゃない。
たしかに二枚残っていた。
早く何とかしねーと二枚目と五枚目の<ひまわり>が燃えちまう。
*
エレベーターが止まると同時に、おっちゃん達にバレないように二枚目の<ひまわり>が展示されているフロアへと走った。
思っているより火の回りがはやい。
このままでは<ひまわり>どころかオレも巻き込まれちまう。
「キッド!!」
そこにいるであろう奴の名前を呼びながら展示室に入ると、予想をしていなかった人がいて思わず声が漏れる。
「なまえ・・・お姉さん?それに安室さん?!なんでこのフロアに?!」
そこにいたのは、先程別れたばかりの安室さんと彼に腕を掴まれているなまえさん。そしてオレの姿をした怪盗キッドだった。
「コナン君?どうしてここ・・・」
「エレベーターで避難したんじゃなかったのか?!」
安室さんとなまえさんの視線がオレに向けられる。
「んなことより、もう一枚は?五枚目の<ひまわり>は無事なの?」
「あぁ、そっちのストッパーはすぐに外れたんだが、こっちが変なところに引っかかっちまって」
キッドはポールに手をかけガタガタと動かすも、挟まったポールは抜けそうにない。
「早く外さねーと絵の具が溶けちまう」
「どけ!キッド!」
オレは跪いてキック力増強シューズのダイヤルをキリキリと回す。
「バ、バカよせ!<ひまわり>だぞ!人類の宝だぞ!」
ベルトからサッカーボールを出し、床に弾んだボールを思いっきり蹴り上げる。ボールは風に煽られて巻あがった炎を破りキッドをかすめ壁に激突した。
ボールをギリギリのところでかわして床に倒れたキッドの頭上に、崩れた壁が落ちてくる。
それでも肝心のポールはささったままだ。
「・・・・・・へぇ、そのベルトそんな事もできるんだね。さすが阿笠博士の発明品だ」
その場に似つかわしくないその賛辞の声は安室さんのものだった。
「<ひまわり>の為に君達が命を落とすなんてあっていいはずがない。少しさがっていてくれ」
安室さんはそう言うと、なまえさんを一番壁の崩れていない安全な場所へ移動させる。
「・・・安室さん・・・?一体何を・・・っ?」
そんなオレの問いかけに答えることはせず、真っ直ぐにポールの前に立った彼は、着ていたジャケットの胸ポケットに手を入れた。
・・・・・・まさか・・・っ。
カチャリと構えられた拳銃。
銃口はポールの方へと向けられている。
パンパン!と乾いた銃声が何発か響いたと同時にポールが挟まっていた壁が崩れる。
それを見た彼は、そのままポールを真上に蹴り上げた。
ポールが外れ突っかかりのなくなった<ひまわり>は、防火防水ケースに入れられ、レールを伝っておりていった。
「・・・・・・・・・あんた一体何者なの?」
キッドが訝しげに安室さんを見る。
それもそうだろう。
この国で拳銃の所持が許されている人間なんて限られている。
まさか彼が今持っているとは思っていなかったし、ここで発砲するとは思っていなかった。
「そんなことより早く避難だ。このままじゃ全員焼け死ぬぞ」
安室さんは拳銃を胸の中にしまうと、なまえさんの元へと駆け寄った。
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