続・もし出会わなければ | ナノ
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▽ 4-4



超高層ビルが立ち並ぶ西新宿。その中にある損保ジャパン日本興亜美術館。



四十二階までエレベーターで上がると、受付でチケットを購入し展示室へと向かった。



午前中でバイトを終えた私は、久しぶりに美術館を訪れていた。



話題の<ひまわり>は見ることができないけれど、ここ日本には五枚目の<ひまわり>が展示されている美術館があるのだ。



平日なのでそこまで人も多くなく、すんなりと<ひまわり>の前へと辿り着く。



絵の前にあるベンチに腰掛け、目の前にある<ひまわり>を見つめる。



花瓶に挿された十五本のひまわり。七枚ある<ひまわり>の中でも、黄色のコントラストが美しいこの絵が好きだった。


こんなに美しいものを描くことが出来るというのは素晴らしい。けれど、この絵画があの耳きり事件の後に描かれたということは驚きだった。描いた時の彼の心の内はこのひまわりのように穢れなきものではなかったのだろうか。



そんなことを考えながら<ひまわり>を見つめていると、隣に座っていた着物姿の老婆に声をかけられた。



「<ひまわり>が好きなのね」


優しく微笑むその人の柔らかな空気に、ここ最近張り詰めていた心が少しだけ和らぐ。



「とても素敵な絵だ思います。貴女も?」


この絵が好きですか?と言う意味を込めて質問すると、彼女は少し寂しそうに笑った。


「そうね、毎日見に来てるの」
「毎日ですか!すごいですね」


その寂しそうな瞳が気にかかって、当たり障りのない返事しか返せない自分がもどかしい。



「でもね、この<ひまわり>じゃない・・・・・・」



そう呟いた彼女の言葉の意味が分からず、聞き返そうとした時、美術館には似合わない賑やかな声が聞こえてきた。



「どれだ?どれが<ひまわり>だ?!」
「これでしょ?この真ん中の」
「すごいですねー」



ぱたぱたと<ひまわり>の前に走ってきた子供達。



「あ!なまえお姉さんだ!」
「ホントだ!久しぶりだな!」


少年探偵団の子供達がベンチに座る私に気付き、笑顔で寄ってきてくれる。



「オメーら、静かにしてねーと追い出されちまうぞ」



そう言いながらやって来たのは、コナン君と阿笠博士、そして初めましての灰原哀ちゃんだった。


「なまえお姉さん?こんな所で会うと思わなかった」
「おお、久しぶりじゃの」


コナン君と阿笠博士の隣で、じっとこちらを見つめる哀ちゃん。



彼女からしたら私は知らない人だもんね。



思いがけず賑やかになってしまった美術館。隣の老婆に騒がしくしてすまないと頭を下げると、彼女は優しく「いいえ」と微笑んだ。



「じゃあ土産買いに行こうぜ!」
「行こ行こ!」
「ほら、早く行きましょう博士!」



子供達の興味は<ひまわり>からお土産に移ったようで、三人に手を引っぱられていく阿笠博士の姿を見て残された私達は苦笑いを浮かべた。



「今朝、探偵事務所に安室さんが来てたよ」


コナン君が私の隣に腰かけながらこちらを見上げた。哀ちゃんは、私ではなく老婆の隣で彼女と話していた。



「うん、<ひまわり>とキッドのこと気にしてたからね」


そういえば朝から毛利さんの所へ行くと言っていたのを思い出す。


「なんでキッドは<ひまわり>を狙うんだろう・・・・・・」



ぽつりと呟かれた言葉は、私に向けられているといつよりはコナン君の自問自答だろう。


キッドキラーの彼もその真相はまだ分かっていないらしい。

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